#526

「真面目に聞けるかよッ! そんな話をよッ!」


ソウルミューは声を荒げたダブに向かってそれ以上の大声で言い返し出した。


どうして助けようとしていた兄を殺すかもしれないなんて言うのか。


どうして自分を殺してくれなんて言うのか。


たとえどんな理由があったとしても、自分にダブを殺してくれなんて言うなと、彼の胸元を掴んで叫ぶ。


「いいか! オレはお前を殺したりなんか絶対にしないぞッ! そんな状況になる前にオレがイードの奴をぶっ飛ばせばそれで終わりだろ!? それが親父の意志だし、世界を救うことになるんだッ!」


凄まじい迫力で喰って掛かられたダブは、両目から涙を流していた。


そんな彼を見たソウルミューは掴んでいた手を放し、慌てて謝罪をする。


「あぁ~ッ! 悪かった悪かったよ! ごめんごめんオレが悪かった! でもさぁ……やっぱオレにはお前もお前の兄貴もを殺せねぇよ」


両手を振り回して必死に謝るソウルミュー。


ダブは涙を拭うと、再び彼の目を見つめる。


「お願いだよ、ソウルミュー……。世界のためなんだ……」


「誰か死ななきゃ収まらないのかよ? 頭を使って皆で全力でやればなんとかなるだろ? オレとお前にブライダルやミウム……。ミウムの奴は……今は共和国に行っちまってるけどさ。リズムとシストルムだっている。こないだだってかなりヤバかったけど、なんとかなったんだ。今度だって……」


「未来が見えたんだ……」


「未来だって? それって……まさか神具の影響で……?」


「僕は……君以外にこんなことを頼めないんだ……。約束してほしい……。君の父……ブルースさんに誓って……」


泣き顔で言うダブの姿に、ソウルミューはもう頷くしか選択肢がなかった。


――ソウルミューとダブがストリング帝国内に入ろうとしてとき。


ブロード、プロコラット、シン、クリーンの四人はイードと対峙していた。


だが、ブロードが持つ普通の人間がマシーナリーウイルスの適合者と同じ力を得るための腕輪――バングル――効果装置エフェクトの攻撃は通じず――。


プロコラットの神具の力である五穀の恩寵グレイングレースの結界は踏み潰され――。


シンに加護を与えていた神具――聖剣ズルフィカールはイードのよって砕かれた後に飲み込まれ――。


クリーンはズルフィカールのように砕かれるのを恐れ、自分の持つ神具である小雪リトル スノー小鉄リトル スティールを逃がそうとしていた。


「ヘルキャット、アリア。二人は外にいるユダーティーと合流して帝国から脱出しろ」


ブロードがヘルキャットとアリアにそう言うと、二人は戸惑いながらも答える。


「ですが大佐、私たちはまだ戦えます!」


「そうですよ。ヘルキャットの言う通りです。それに全員で戦えばなんとか活路を見出せるかも」


「わからないのか。もうそういう次元ではないんだ」


この場に残ろうとする二人に向かって、ブロードはそう答えると冷静に話し始めた。


応援を頼んだスピー·エドワーズ大尉が来ないところをみると、すでにやられている可能性が高い。


それに、どうやら先ほどの通信で聞いた話によると、ローズ将軍はすでに皇子と皇女を連れて国を出たようだ。


これ以上ここに残る意味はない。


さらにここにいる誰かが、ストリング帝国が永遠なる破滅エターナル ルーインに襲われたことを、現在バイオニクス共和国にいるノピア将軍へ伝える義務がある。


ブロードはその役目をヘルキャットとアリアに頼んだ。


「すみません……。私たちじゃそれぐらいしかできないってことですよね……」


「俺もあの化け物から見ればお前らと変わらん肉の壁だ。わかったら早くここから出て、ノピア将軍のところへ行ってくれ」


「わかりました……。必ずノピア将軍に伝えます」


ヘルキャットとアリアは皆に敬礼をすると、その場から走り出していった。


だが、イードは特に何もすることなく彼女たちが外へ行くの眺めているだけだった。


しかし、クリーンが小雪リトル スノー小鉄リトル スティールに声をかけた途端に、イードは動き出した。


その巨体とは思えないほど俊敏な動きで、リトルたちを捕まえようと手を伸ばす。


「女よりも犬かよ! 変な性癖でも持ってんのかおっさんッ!」


そんなイードの顔面にプロコラットが飛び蹴り。


だが、イードは怯むことなくプロコラットの足を掴んで地面に叩きつける。


そして、再び顔を上げると今度はブロードとシンが向かって来ていた。


ブロードは効果装置エフェクトで機械化した拳で殴り掛かり、シンは拾っていた銃剣を突いたが。


イードはブロードにカウンターの左フック。


それからシンには膝蹴りで、その銃剣ごと彼を吹き飛ばす。


「お願い、リトルたち……。兄様のところへ行ってッ!」


三人の妨害のおかげで、小雪リトル スノー小鉄リトル スティールは、クリーンの兄であるブレイク·ベルサウンドの下へとその姿を消していった。


残されたクリーンは安堵の表情を浮かべると、先ほど手にした槍を握ってイードの前に立つ。


「父が編み出したベルサウンド槍術……。あなたにお見せ致します」


「逃したか。まあいい。私の目的は神具だけではないのだからな」


そう言って不敵に笑ったイードは、槍を構えたクリーンに対して身構えた。

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