#522

「う、嘘でしょ……? 神具が砕けた……?」


両目を見開きながら呟くように言うクリーン。


イードはそんな彼女の前で、その粉々になった聖剣ズルフィカールを飲み込む。


口を大きく開け、体内に剣の欠片を残らず取り込んでいくイード。


すると、彼の身体から禍々しい光が放たれ始めた。


「まずは一つ、次はお前の二刀だ」


イードは次にクリーンのほうへと身体を向けた。


クリーンはこのままでは小雪リトル スノー小鉄リトル スティールも聖剣ズルフィカールのように砕かれ、飲み込まれると思い、二本の刀を犬の姿へと戻す。


そして、彼女は二匹に逃げるように叫ぶ。


「リトルたちッ! 今すぐ兄のところへ行ってくださいッ!」


「そういえば、お前の神具は兄にも使えたな」


小雪リトル スノー小鉄リトル スティールが、クリーンに言われたように動こうとしたが。


イードが二匹に手を翳して光を放ち、シンやクリーンと同じようにその動きを奪った。


そして、動けなくなった二匹にその手を伸ばす。


だが、そんなイードを阻止しようとブロードが飛び掛かって来た。


効果装置エフェクトッ!」


ブロードは、身に付けた腕輪――。


普通の人間がマシーナリーウイルスの適合者と同じ力を得るための腕輪バングルを使用することで皮膚の表面を機械で覆い、身体能力を上げてイードの顔面を殴りつけた。


しかし、イードが怯むことない。


まるで頬を撫でられたくらいの様子で、ブロードの胴体へボディブローを浴びせ返した。


ブロードの身体がボールのように飛んでいく。


「紛い物の力で私を止められると思ったか?」


それを見ていたヘルキャットとアリアがイードに飛び掛かろうとしたが――。


「やめろッ!」


立ち上がったプロコラットが彼女たちを止め、再びイードと対峙した。


「お前らは外へ行ってユダーティーを手伝ってやってくれ」


プロコラットはヘルキャットとアリアに背を向けながら、ストリング帝国の住民たちを逃がしている彼の恋人――ユダーティーに手を貸してほしいと頼んだ。


だが、ヘルキャットとアリアは自分たちも戦うと言い返した。


自分の国は自分たちで守る。


そのために軍隊に入ったのだと、恐怖に震えながらも声を張り上げた。


「俺が時間を稼いでやろうってんじゃねぇかッ! 頼むぜ、今ならこいつの部下たちも動けねぇからな」


「動けないだと?」


イードがプロコラットに訊くと彼は笑みを浮かべる。


そして、自分の持つ神具――陶器オオゲツをどこからか現し、手に取った。


「ああ、お前の部下たちが暴れているところ全部に結界を張ったからな」


陶器オオヅキの力――。


それは五穀の恩寵グレイングレースという結界を張ることができる能力だ。


プロコラットはその結界内にいる者の生命力を奪える。


結界の作り方はその者――つまりプロコラットの血で印した範囲内。


命を奪い、そして与えることができる神具だ。


プロコラットはその力で、永遠なる破滅エターナル ルーインの信者たちを無力化したと言う。


「神具の力か。さすがだな」


「こんなもんで終わりじゃねぇよ。ここだってすでにオオヅキの結界は張られてんだぜッ!」


プロコラットがそう叫ぶと、イードを含む幹部たちの動きが止まり、次第にその身体から生気が奪われていった。


イードは自身が放っていた光が徐々に消えていくのを感じながら、プロコラットを見据える。


「まさか、結界を張ることを考えながら戦っていたのか……。油断ならん奴だ」

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