#517

ジャズとミックスはサーベイランスの破壊した街の中にいた。


崩れたビルを眺めながら、二人で支給された携帯糧秣レーションの缶詰めパスタを頬張る。


「うげ、それにしても酷い味だな」


ミックスが缶詰めに入ったパスタの味に怪訝な顔をする。


「文句言わないの。食べ物があるだけでも有り難いんだから」


そんなミックスに向かってジャズがそう言うと、彼はパスタの味を我慢しながら口を開く。


「でもまあ、アミノ先生たちも無事だったし、サービスも戻って来たし。ノピアさんはまだ見つかってないけど……」


「……うん。でも、死体がないってことは生きてる可能性はあるでしょう」


ジャズがそう返事をすると、彼女は立ち上がって言葉を続けた。


最悪の人工知能サーベイランスが爆破したバイオニクス共和国を象徴する管制塔――。


アーティフィシャルタワーの瓦礫の中からは、人工知能に操れていた特殊能力を持つ子どもたちの死体は見つかったが、ストリング帝国の将軍ノピア·ラッシクの死体は見つからなかった。


それはきっとノピアがまだ生きている可能性があるということだと。


「大丈夫、あの人は……そう簡単に死なない」


そう言いながら暗い表情のジャズにミックスは言う。


「そういえば、メディスンさんがキッチンを優先して直してくれたみたいだから、夜には何か美味しい物を作るよ。何か食べたい物はある?」


「まだ街も復旧してないからなぁ。大勢で食べれて、温まる物とか?」


「俺はジャズが何を食べたいかを訊いたんだけどね。まあ、らしいっていえばらしいけどさ」


そう言いながら苦笑いするミックスに、ジャズが何か言い返そうとすると、突然空から人が降って来た。


それは二十代前半くらいの女性で、ショートカットの道着のような服を着ている。


ミックスとジャズが身構えると、ショートカットの女性が口を開く。


「あなた、ストリング帝国のジャズ·スクワイアでしょ? あたしはマスターメイカ·オパール。話があるの、一緒に来てちょうだい」


「マスターメイカ……? あなた、なんなのよいきなり?」


「あ~あ……彼氏とイチャイチャしていたいだろうけど急いでるの。至急ノピア·ラッシクに会いたい。大袈裟じゃなく世界の命運がかかってるんだよ」


「世界の命運? あなた……一体何を言ってるの?」


ジャズが戸惑っていると、また空から人が降りてきた。


メイカとは違ってドスンという大きな音を鳴らした着地だ。


ジャズはその人物の姿を見て驚愕する。


「嘘ッ!? えッ!? あなた……ロウル·リンギングッ!?」


モジャモジャのパーマ頭にレザージャケットを羽織ったガッチリとした中年男性――。


ハザードクラスの非属ノン ジーナス――ロウル·リンギングだった。


「よお、たしかミックスっていったよな?」


「あッ、ロウルさん。お久しぶりです」


「おう、久しぶり」


まるで友人のように挨拶を交わすミックスとロウルを見て、ジャズが声を荒げる。


「ちょっとあんたッ! この男に殺されかけたんじゃなかったのッ!? なに普通に挨拶してんだよッ!」


「いやだって、襲ってきそうな感じじゃないし……」


そんなミックスとジャズを見たメイカは、大きくため息をつくと静かに言う。


「イード·レイヴェンスクロフトがストリング帝国を襲撃した。次はここだよ。早くノピア·ラッシクに会わせて」


「イード·レイヴェンスクロフトって……。それに帝国が襲われてるッ!?」

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