#466

ジャズはそんなウェディングを見ると、持っていたオフヴォーカーを投げ捨てた。


そして、両手を挙げて彼女へと近づいていく。


無抵抗の状態で向かってくるジャズを見たウェディングは、表情を歪めながら後退りしてしまっていた。


「おい、何してんだよッ! さっさとそいつをぶっ飛ばしてボックスを破壊しろ!」


それを見ていたラヴヘイトが叫んだ。


だが、次の瞬間――。


彼の立っていた場所――床が突然開いた。


「うわぁぁぁッ!」


「悪いねぇ。まともやっても勝てそうにないんで、そのまま落ちっててもらうよ」


ジャガーは側にあったコンソールを操作し、ラヴヘイトをこの地下施設からさらに下へと落とした。


彼はラヴヘイトがしばらく上がって来れないことを確認すると、姉であるジャズへと声をかける。


「なにやってんだよジャズ! 武器取れ! じゃねぇとサービスを守れねぇぞッ!」


弟の叫びも聞かず、ジャズは丸腰でさらに両手を挙げたままウェディングへ近づき、後退っている彼女の目の前に立った。


ウェディングは覚悟を決めたのか、手の甲から出ているダイヤモンドの剣をジャズの顔に突きつける。


「姉さん……退いてください」


「退かないよ!」


ジャズは剣を突き付けられても怯まなかった。


むしろ怯んでいるのは、剣を突きつけているウェディングのほうだ。


「じゃあ、私を倒してそこで寝てる化け物を守ればいいでしょッ!」


「それもしない。あたしはサービスを守りたい……。でも、ウェディング……あなたとは戦わない……」


「そんなの……そんなのズルいです……。卑怯ですよぉ……」


ジャズの想いが伝わったのか。


ウェディングはその場に両膝を付いて俯いてしまった。


それから泣き出してしまったウェディングに手を伸ばし、ジャズは彼女を慰める。


「やはりハザードクラスとはいえまだ子供か」


ジャズたちの様子を見て呟いたベクター。


リーディンはそんな彼から距離を取り、声をかける。


「残りはあなた一人だけ。ここは歴戦の将らしく賢明なる判断を期待したいとこだけど」


「年を取ると年々頑固になるものでな。まだまだ引けんよ」


ベクターがそう返事をすると、そこへミックスが飛び込んできた。


ミックスは腕の機械化を解き、先ほどのジャズと同じように両手を挙げてみせる。


「ベクターさんだっけ? もうやめましょう。大丈夫、サービスは敵じゃない」


「君の名はなんていうんだ?」


「俺はミックス。この国の学校に通っている学生です」


ミックスからその名を聞き、ベクターは思う。


(この少年がミックス……。そうか……この甘さ……。ロウルの奴が負けたのもわかる)


動かないベクターにミックスは言葉を続ける。


「俺が保証します! サービスは人を傷つけるようなことなんて絶対にしないッ!」


「君の保証などまったくもって意味がない。問題はそこにいる化け物が、サーベランス側の戦力になる可能性があるということだ」


「そんなの絶対にありえない!」


「感情だけで動くなよ少年。もしその選択が誤りだった場合、君の大事な人たちが殺されてからでは遅いのだ。敵の回る可能性がある以上、そいつは破壊する必要がある」


ベクターは両手を挙げているミックスとリーディンを見て身構えると、再び戦闘態勢へと入った。


やるしかないのかと、二人が表情を強張らせていると、そこへある人物が飛び込んでくる。


「ノピアさんッ!?」


ミックスが叫ぶと、突然現れたノピアはミックスたちやベクターのことなど相手にせずに、サービスの入っているボックスの上へと飛び乗った。


そして、周囲にあったケーブルを自分の機械化させた腕へと繋ぎ、もう片方の手に握っていた真っ赤な光剣――ピックアップブレードの刃を箱に向ける。


「やめろぉぉぉッ!」


ボックスへとブレードの刃を突き刺そうとしたノピアに向かってミックスが叫んだが。


彼の叫びも虚しく、その真っ赤な光の刃は箱へと突き刺さってしまった。

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