#465

ベクターはボックスに向かって握った手榴弾を投げ捨てる。


それにいち早く気が付いたジャズが叫ぼうとしたが、すでにミックスは飛び込んできていた。


ミックスは両腕を機械化させて手榴弾を床へと隙間なく押さえる。


「こいつ!? 適合者かッ!?」


ベクターはすぐに腰に帯びた警備業務用に開発された白鼠しろねず色に輝くスタンバトン――白い暴動ホワイトライオットを構えた。


そして、それをミックスの胴体に向かって振ったが、彼の機械の両腕で防がれる。


「くッなんてパワーだッ! あなたも特殊能力者なの!?」


「俺は普通の人間だよ」


「じゃあなんだよこの力はッ!? 戦闘ドローン並みじゃないかッ! どんだけ筋トレしてんだよあんたはッ!?」


「君は素人だな。動きや反応は良いが、それだけだ」


ベクターはそう言うと、ミックスの胴体へ蹴りを放った。


だが、マシーナリーウイルスの適合者であるミックスのほうが身体能力は高く、容易くそれを受け止める。


「それくらい素人だって読めるよ!」


「あと、戦闘中に喋り過ぎだな」


ベクターはミックスに掴まれた足をそのままに、もう片方の足で彼の顔面に蹴りを喰らわす。


側頭部にもろに喰らったミックスはそのまま周囲の電子機器を巻き込んで吹き飛ばされてしまった。


「がはぁぁぁッ!」


「ミックスッ!?」


「彼氏の心配している暇はないよ! あんたは舞う宝石ダンシング·ダイヤモンドを止めてッ!」


吹き飛ばされたミックスに向かって叫ぶジャズに、リーディンはウェディングの相手をするように言うと、ベクターへと襲い掛かっていった。


飛び蹴りから着地と同時に、右のストレートから体を回転させて左の裏拳を打つ。


「今度は呪いの儘リメイン カースか。まったく、こうも特殊能力者の相手が続くのは年齢的に勘弁してもらいたいもんだ」


「ベクター長官! この中にいる子は、サービスは敵じゃないです!」


「たしか君の名はリーディンだったか。前にそこの化け物を殺そうとしたのに、どういう心境の変化があったんだ?」


ベクターはリーディンが繰り出すコンビネーションを捌きながら、彼女に訊ねている。


何故ベクターがミックスのような適合者や、リーディンのような呪いの儘リメイン カースと渡り合えるのか。


それは、彼が服の下に強化スキンスーツを着込んでいるからだった。


スーツはその強度は刃物をすら通さず、銃弾さえ防ぐ。


着用者の身体能力を飛躍的に向上させる、いわば超人に変えることが出来るものだ。


このスーツのおかげでベクターは、特殊能力者と後れを取らずに済んでいる。


だが、それでも基本的には特殊能力者には敵わない。


あくまで使用者の戦闘技術に依存する。


「やめてウェディング! あなたに銃を向けたくないッ!」


「私も姉さんと戦いたくないです……」


「だったらッ!」


「でも……カシミアを殺した機械の仲間を放って置くことはできないッ!」


リーディンとベクターが戦っている側では――。


オフヴォーカーを下げたジャズに向かって、ウェディングがその拳から生やしたダイヤモンドの剣を振り上げていた。

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