#421

「あんたはあたしに力をくれりゃそれでいいんだッ!」


そして、山中に響くほどの咆哮ほうこうしたメイカは、体内の気をコントロールし放出して浮遊。


そのまま物凄い速度で空を飛んで行ってしまった。


――メイカがクロノスの助言を拒否していた頃。


永遠なる破滅エターナル ルーインの陣地では、イードが次の目的の場所へと移動しようしていた。


バイオニクス共和国からハザードクラスに認定されている死の商人デスマーチャントフォクシーレディが経営する会社――。


エレクトロハーモニー社から購入した大型輸送機に、この陣地いる大半の信者を連れて乗り込もうとしているところだ。


「では、ここは任せるぞ。ジョルジ·アルマー、エンポリ·アルマー」


イードに声をかけられ、その場で片膝をつく二人の男。


アルマー兄弟という半分ロン毛の半分スキンヘッドで、それぞれ左右対称の髪型した組織の幹部である。


二人共、当然イードと同じく永遠なる破滅エターナル ルーインの法衣を羽織っている。


ジョルジとエンポリは、イードからこの陣地の守りだけでなく、時の領地タイム·テリトリーにあるはずの神具クロノスの捜索も命じられた。


「お任せください、イード様」


「必ずや神具クロノスを見つけ出し、我らが最高指導者の前に持ってまいります」


そして、深々と頭を下げたアルマー兄弟の兄ジョルジと弟エンポリを一瞥いちべつしたイードは、大型航空機へと乗り込んでその陣地を後にした。


飛んでいく大型航空機を眺めながら、弟エンポリが兄ジョルジへ声をかける。


「ねえ兄ちゃん。探せって言われてもどうすんだよ? もう里のほうは探し尽くしてるぜ」


「探すべきは場所ではない。人だ。イード様がいうにマスター·クオが逃がした娘がいたそうだ。きっとそいつが神具の場所を知っているに違いない」


「さっすがジョルジ兄ちゃんッ! で、その娘ってのはどこにいるんだ?」


「だからそれを見つけるのが我ら兄弟の使命だ」


「そっか」


二人は容姿こそほぼ同じだが。


会話を聞いている限り、兄であるジョルジのほうがしっかりしていそうである。


顔つきのほうも厳しい表情をした兄と比べると、弟のエンポリのほうが人懐っこく見える。


それから二人は軍幕の中へと戻ると、残った信者たちにクオが逃がした娘――メイカのことを捜すように命じる。


「その娘の特徴は、年齢は二十代くらい、短い髪をした道着姿の娘だとイード様から聞いている」


「でもさぁ、兄ちゃん。その娘、もう着替えちゃってるかもしれないぜ。それにさぁ、そんだけの情報で女一人捜すのって、結構な無茶ぶりじゃね?」


「案ずるな、エンポリよ。この地域周辺は山が多く、人が住めるようなところは少ない」


「ってことは、そうかッ! 髪の短い女を片っ端から攫ってくればいいんだね、兄ちゃんッ!」


「その通りだ、弟よ」


二人の会話を聞いていた信者たちは、一斉に頭を下げるとその場から去っていった。


話の内容から捜し方を理解したのだろう。


軍幕を出て、各自行動を開始する。


それを見送ったアルマー兄弟――兄のジョルジのほうは、置いてあった椅子に腰かけた。


そんな兄に甘えるように、弟エンポリが後ろから抱きしめるようにじゃれつく。


「ねえねえ兄ちゃん。神具が何個か揃えば、イード様が人間を全部殺してくれるんだよね」


「ああ、そうだ。人類をすべて滅ぼす日が少しでも早く近づくように、我らもできる限りのことをするのだ」


「楽しみだな~。早く人間全部死んでほしいよ~」


「焦ることなどないぞ。イード様は必ずや我らが永遠なる破滅エターナル ルーインの、そして兄弟の願いを叶えてくれる」

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