#411

「わりぃけど、ちょっと待っててくれよ」


ロウルはせっかく焼き飯が運ばれて来たというのに、テーブルの席から立ち上がると、目の前で町の復興作業をしている者たちを手伝い始めた。


重たい木やレンガを運び、ときにはその場を仕切っている者の指示を仰ぎ、周りの人間と笑い合いながら作業を続けている。


メイカはいきなりこんなボロボロの街に連れて来られて、頼んでもない焼き飯を前に待たされたせいか、その眉間にしわを寄せている。


どうやら話に聞いていた通り、ロウルがボランティア活動をしているの本当だったようだと、苛立ちながら作業している彼を見ていた。


それから休憩時間に入ったのか、ロウルがメイカのところへ戻って来た。


「わりぃ、わりぃ。焼き飯は温め直してもらうか。お~い、わりぃけどこれ、冷めちまったから温め直してくれ。あとビールでいいか?」


ロウルに訊ねられたメイカは不機嫌そうに頷くと、店員と思われる女性が、焼き飯を持っていくついでに二人分のビール瓶を置いていく。


それからすぐに温め直した焼き飯が運ばれ、サービスなのかチャーシューとネギが入った器を持ってきた。


「ここの焼き飯とチャーシューはマジで美味いんだよ。じゃあ、乾杯といこうぜ」


ロウルにそう言われ、彼が蓋を開けたビールをコップへと注ぎ、メイカは差し出されたグラスを手に取ってカンっと音を立てて重ねる。


そして、ロウルは店員を呼んで自分のエレクトロンフォンを出した。


「先払いしとくわ。飲むと払い忘れちまうかもしれねぇからな」


そう言って店員の女性が持っていた電子端末に自分のエレクトロンフォンを重ね合わせた。


すると、女性が両目を大きく開け、こんなにもらえないと言い出したが――。


「いいって、こんな状況でこんな美味いもん食わせてもらってんだ。あと、この町に俺の寝泊まりできる家も作りてぇし。先行投資ってやつだよ」


ロウルがそう言うと、このビニールシートの屋根に下にいた他の客たちが一斉に席から立ち上がり、彼に向かって深く頭を下げた。


そして客たちが口々に礼を言い出すと、ロウルはやめてくれと言葉を返す。


「おいおい、俺たちはこれからこの町を復興させて、みんなで楽しいことをやるんだからさ。そういうのは楽しくねぇだろ」


ロウルは困った顔をすると、再び席を立ち上がって皆に声をかけた。


今日は自分がおごりだと言い、町にいる全員を呼んでくるように声を張り上げた。


皆が――特に子供が嬉しそうにしているのを見たメイカは、ロウルへ声をかける。


「なんかスゲーまどろっこしいね。お金だけあげればいいんじゃないの」


「お前があいつらの立場ならもらうのか?」


ロウルは言葉を続ける。


ただ大変だろうというだけで、ろくな関係も築いていない人間が施しをしてきたとして、それを引け目なく受け取れるのかと。


メイカはそのロウルの言葉に、苦虫を嚙み潰した顔をするしかなかった。

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