#396

「うぅ……一体どうなったんだ?」


ダブが目を覚ますと、傍に倒れているミウムとブライダルの姿が見えた。


圧迫感のある空間には操縦席があり、ここが自分たちが乗って来た小型ジェット機の中だということを理解する。


「気が付いたか?」


そして、そこにはソウルミューの父親ブルースが立っていた。


彼はバーバリーが全身からオーラを放った瞬間に、ダブたちを抱えてここまで運んだようだ。


「ソウルミューは!? 彼はどこッ!?」


ダブがハッと我に返ると大慌てでソウルミューのことを訊ねた。


ブルースはそんな端正な顔を歪める彼に、穏やかに伝える。


「あいつは君たちを脱出させるために、バーバリーを抑えている」


ブルースの話によると――。


バーバリーが無差別にオーラを放ったことで壁や天井が崩れ、ダブたちは生き埋めになったようだ。


そのときに意識を取り戻したブルースは、ソウルミューに言われてダブたちを救出。


そのまま彼に言われるまま、小型ジェット機までダブたちを背負って来たのだと言う。


「そ、そんな……。じゃあソウルミューは一人で戦ってるんじゃないか!?」


「落ち着け。じきにこの基地は崩れる。すでに建物内にはガスが入ってきてしまっているんだ。君は二人を連れて、一刻も早くここから脱出しなければならない」


「なんでよ!? ソウルミューは!? 彼を置いていけないよッ!」


ブルースは、喚き出したダブの肩に手をそっと乗せると、静かながら力強い声を発する。


「心配するなくていい。あいつは……息子は私が必ず助ける」


ダブは、そのときのブルースの顔を見て、もうそれ以上何も言えなかった。


――その頃、ソウルミューはバーバリーと対峙していた。


ブラスターハンドガンを構え、両手を失ったバーバリーに向かって光線を撃ち続けている。


だが、バーバリーが無差別に放っているオーラによってすべて防がれてしまっていた。


「返せッ! 神具を返せッ! 私は……世界を救わねばならんだぁぁぁッ!」


「何が世界を救うだ! ふざけてんじゃねぇぞコラッ! そんなのお前の主観でしかねぇ、ただの独裁だろッ!」


「虫けらが私に発言するなッ!」


バーバリーはソウルミューに向かってオーラを放つ。


その閃光はソウルミューの身体を貫いた。


腹部に穴が開き、向こう側が見えるほどの重傷を負わさてしまった。


だが、それでもソウルミューは倒れない。


彼はこれまでの人生で他人に優しくしてもらったこと――。


自分を犠牲にしてまで何かしてもらったことがなかった。


だが、ダブがいなければ自分はこうして他人のために身体を張ったりしなかっただろう。


ミウムとブライダルは自分を守るために盾になってくれなければ、こうして自分を奮い立っていられなかっただろう。


今、まさにソウルミューは、皆を守るために立ち上がっていた。


「なんだと!? バカなッ!?」


「殺せた……と、思ったのかよ……。こんなもんじゃオレは殺れねぇ……皆が無事にここから出るまで……オレは倒れねぇッ!」


ソウルミューは、貫かれた腹部を手で押さえながら言葉を続ける。


「お前が、勝手な使命感に駆られるの……なんとなくわかるぜ……。オレもお前と同じだからな……」


「私と貴様が一緒だと!? 虫けらに何がわかる!? 世界のことなど考えたことのないお前に、何がわかるというのだッ!?」


声を張り上げるバーバリー。


両手を切断されたため、血を流し過ぎたのか顔色も悪い状態で叫んだ。


そんな彼に向かってソウルミューは、苦しそうにしながらも笑みを浮かべた。


「たしかに、オレに世界とか難しいことはわかんねぇ……。けどな、お前はオレと同じでもっと話し合うべきだったんだ」

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