#371

すでにサルファイドゾーン(硫化水素のガスが地面から噴き出ている地帯)に入っているため、大型航空機の撃で二人の乗っているジグソーポットに穴でも開いたら命はないのだが。


ソウルミューは余程敵からの砲弾に被弾しない自信があるのか、それからも挑発を続けていた。


そして、そんな音楽と彼の張り上げる声を聞いていたバーバリーは――。


「道化もここまで来ると笑えんな。何をしている、さっさと撃ち落とせ」


永遠なる破滅エターナル ルーインの信者たちに指示を出した。


大型航空機に付いた砲台や機関銃が、一斉にソウルミューたちを狙ってくる。


一撃でもかすった終わりだが、小回りが利くジグソーポッドをたくみに操り、ソウルミューとブライダルはさらに大型航空機との距離を詰めていた。


「ねえ、こいつに武器はないの?」


「ガジェットなら色々あるぞ。操縦席の後ろだ」


大型航空機の攻撃をかわしながらブライダルが訊ねると、ソウルミューが答えた。


たしかに、ブライダルが座っている操縦席の後ろには積み上げられた銃やよくわからない電子機器があったが、どれもこれもジグソーポッドを操縦しながら使用できそうにない。


「ダメじゃん! ここにあるやつって全部窓を開けないと使えないでしょ!?」


それに、ここは硫化水素のガスが噴き出るサルファイドゾーン。


ここでジグソーポットの窓を開けるのは自殺行為に等しい。


「そんなことはねぇよ。その中にバッチみたいのがあんだろう」


「バッチ?」


「そいつはHPスーツ――ホログラフィック·プロテクションスーツだ」


ホログラフィック·プロテクションスーツとは――


ソウルミューによって開発されたバッジ型の簡易的防護服で、彼は長い名前を呼びやすくするためHPスーツと呼んでいる。


そのバッジ型を体につけてスイッチを入れれば、体全体にバリアーのような見えない膜が貼られ、外気の影響を受けなくなる画期的なものだ。


HPスーツさえあれば、たとえ宇宙空間だろうと酸素ボンベや保護マスクを身に着けなくとも動くことができる。


――と、ソウルミューはエレクトロハーモニー社時代に開発して売り込んだが、その結果は散々なものだった。


その理由は、バイオニクス共和国がストリング帝国の科学力を世界中へ伝え、皆誰もが新しいものに夢中になっている中では、海や宇宙、さらにはここサルファイドゾーンのような硫化水素のガスが噴き出る地域へ行く者などいなかったからだ。


ブライダルとソウルミューが座っている操縦席の後ろには、そのような売れなかった物が積み上げられている。


「へぇ~そんな便利なもんがこの世にあるんだね。じゃあ早速……って、あんたが造ったもんなんて信じられるか!」


ブライダルはまずソウルミューが自分で使用してみせてから使うから、今すぐにHPスーツのバッチを付けて窓を開けてみろと言った。


当然ソウルミューは自分が発明したものなのだから自信満々でHPスーツのバッチを付けてスイッチを入れる。


「おい、しっかりと見てろよ! こいつさえ付ければ硫水の中だって泳げるんだからなッ!」


そんな意気込んで窓を開けたソウルミューを見て――。


ブライダルは、本当に窓を開けたのかと内心で驚いていた。

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