#360

青龍刀の少女――ブライダルは、白銀髪の女性のほうを向く。


「止めないでよミウム。いくらあんたが私の雇い主だからってこいつは別問題。プライベートなことまで口出ししないでほしいね」


「私が言いたいのは、ここで暴れても外で暴れてもリズムに迷惑がかかるということだ。二人共どう考えているかはわからないが、口振りからして彼女の心配をしているのだろう? ならば、ここは互いに武器を収めるべきだと私は思う」


《ミウムの言う通りだぜ。二人が喧嘩して一番悲しむのはリズムだ》


ミウムと呼ばれた白銀髪の女性に続き、彼女の肩口に付いた黒羊の印も二人に喧嘩を止めるべきだと言った。


ソウルミューとブライダルは、その言葉を聞くとリズムのほうを見た。


リズムは古代時代にありそうな襟飾り付けた、顔から全身にかけて灰色と黒の半分の毛色をしている猫――シストルムを抱いたまま悲しそうに二人のことを見ている。


「ケッ酔いが覚めちまった。飲み直しだ飲み直し」


ソウルミューはブラスターハンドガンを腰に戻すと、キッチンにあったウイスキーのびんを手に取る。


そして、ゴミ捨て場からでも拾ってきたのだろうボロボロのソファーに腰を掛け、不機嫌そうに瓶へ口を付ける。


ブライダルはそんな彼を放って、リズムとミウムを連れて食事に行こうとしていた。


リズムはふてくされているソウルミューに出掛けてくることを伝えたが、彼は気のない返事をするだけだった。


「お兄ちゃん……あまり飲み過ぎないでね。身体こわしちゃうよ」


「ああ……わかってんよ」


そして、家にはソウルミューと猫のシストルムと美少年が残された。


ソファーに寄り掛かりながら天井を見つめているソウルミュー。


彼は静かになった部屋で、付いたり消えたりしている電球をただボーと眺めている。


すると、シストルムがソウルミューの膝の上に飛び乗ってきた。


シストルムは鳴くでもなく甘えるでもなく、猫目を細めてソウルミューを凝視ぎょうししていた。


「なんだよ? 気持ちのわりぃ猫だな。オレに文句でもあんのか?」


ウイスキーをがぶ飲みしながら言うソウルミュー。


やはりブライダルとのやり取りのせいで虫の居所が悪いのか、猫にまで喧嘩腰だ。


「我はシストルム。気持ちの悪い猫ではない」


「誰だよ? おいリズム、まだそこにいんのか? ふざけてんなら怒るぞ。それともお前か?」


ソウルミューは外に向かって呼び掛けると、次に拘束されている美少年を見た。


だが、美少年は無言で首を左右に振っている。


「目の前を見ろ。我だ、我が貴様に声をかけている」


ソウルミューは膝の上にいる顔から全身にかけて灰色と黒の半分の毛色をしている猫――シストルムを見た。


シストルムは険しい顔でソウルミューのことをにらんでいる。


「ヤベェな、ちょっと飲み過ぎたみたいだ……。猫がオレに喋ってやがる……」


ハハハと乾いた笑みを浮かべているソウルミューに、シストルムはその険しい顔のまま言葉を続ける。


ここ数日――。


この廃墟のような家で暮らしてみてわかったのは、リズムという少女が善人であるということ――。


そして、彼女はこの他人のことなど気にも止めない享楽町ハシエンダの住人からも好かれている杞憂きゆうな存在であると。


それから、さらに自分とリズムが暮らすことになった話を始める。


「我のことを木から降りられなくなった猫と勘違いし、あの傭兵の娘――ブライダルまで呼び出した。まれに見るに善良さ、そして優しさよ」


シストルムはリズムがいかに素晴らしい人間であるかを語り続けた。


リズムは、猫であるシストルムに餌を与えるために、自分の食費を切り詰め、家のことを回している。


頼りの父親からの仕送りは、すべて兄であるソウルミューのガジェット開発に消えている状態で、リズムはよくやっていると褒めたたえる。


そんなシストルムの話に、ソウルミューは誇らしげに言う。


「当ったり前だろ。オレの妹なんだからよ」


「解せぬ」


自信満々に声を張ったソウルミューに、シストルムは実に不可解だと返事をする。


「何故貴様のような者とあの娘が同じ血族なのだ? 解せぬ、我は解せぬぞ」


「おい、そりゃどういう意味だよ半分猫ッ!」


ソファーに寄りかかっていたソウルミューは、声を荒ぶらせながら身体を起こしてシストルムを睨み付けた。


だが、シストルムは全く動じることなく言葉を返す。


「これだけ事細かに説明しても解らぬのか? 貴様のような者にリズムといる資格などないと我は言っているのだ」

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