#349

ジャズはヴェルサーの側面に回り込みながら自動小銃を撃つ。


先ほどの直線的な攻め方とは違い、相手の視線を逸らす戦法だ。


だが、それでもヴェルサーは変わらずに弾丸を光の障壁で防ぐ。


「なかなか芸が達者なようですが。いくらやり方を変えようと、私には通じませんよ」


それでもジャズは銃を撃ちながらヴェルサーへと近づいていく。


彼女は理解していた。


先ほどの接近戦で、自分とヴェルサーの格闘技術に大した差がないことを。


あの光る両手さえ気を付ければ何とかなる。


この女は、マシーナリーウイルスの適合者や加護を受けている奇跡人スーパーナチュラルのように、極端な身体能力の向上がされているわけではない。


けして倒せない相手じゃないと、ジャズは頭をフル回転して思考をめぐらせる。


次第に距離を詰めてくるジャズを見て、ヴェルサーは思う。


この女将校は何か考えてる。


その目を見ればわかる。


もしかしたら再び接近戦になったときの策でも用意しているのか。


だが、たとえ何か考えがあろうと、一度でもまともに当たればこちらの勝利。


思っていた以上の実力は持っていたが所詮はただの人間だと、回り込むように向かってくるジャズの動きを凝視していた。


そのとき――。


自動小銃から発射されていた銃弾が止み、カチカチという小さな音が鳴った。


ヴェルサーはその音を聞き逃さなかった。


ジャズの使っている銃はもう弾切れだ。


何か策を考えていようが、これではできることが限られる。


「うおぉぉぉッ!!」


「そう来ると思ってましたよ」


ジャズは先ほどと同じように、銃口側を両手で握ってストック(肩に当てるところ。銃床)を振り上げ、まるで打突武器のように殴り掛かる。


だが、今度は読まれている。


弾が尽きた銃の使い道がそれしかないことは、ヴェルサーでなくても誰でもわかる。


そして、ヴェルサーは飛び込んでくるジャズの腹部へその光を纏った拳を叩き込んだ。


血反吐を吐きながらジャズは吹き飛ばされ、前にシンがやられたように壁を突き抜けて礼拝堂の外へと放り出された。


背中を強打し、呼吸がうまくできない。


しかも腹部に受けた一撃で肋骨も何本か折れたようだ。


痛みと息が吸えないせいで、ジャズはうづくまったまま、地面で横になり、ただ身を震わせることしかできないでいた。


そこへヴェルサーが近づいて来る。


だが、体内の生命エネルギーを武器とする彼女のほうも息切れが激しく。


その動きはゆっくりとしたものだった。


「クソったれがッ! ダチの女がやられるのを見てることしかできねぇのかよッ!」


プロコラットが光の檻を何度も殴りつけて出ようとしたが、奇跡人スーパーナチュラルの力を失った今の彼では、とてもじゃないができることじゃない。


ユダーティも必死になってプロコラットと同じように銃で檻を壊そうとするが、結局は何もできないままだった。


「少し力を使い過ぎたようですが……。結果は上々というところですかね」


フラフラになりながらも倒れているジャズを見下ろすヴェルサー。


彼女は、このままジャズに止めを刺そうと光の拳を振り落とそうとした。


だが、そこへニコが飛び掛かる。


ヴェルサーの足に食らいつき、彼女から離れろと言っているように大声で鳴いている。


「ニ、ニコ……ダメ……」


「震えるくらい怖いのなら、出て来なければいいのにね」


「や、やめて……ニコに手を出さないで……」


ジャズのか細い声も虚しく、ニコはヴェルサーに蹴り飛ばされしまった。


そして、ヴェルサーはジャズの首元を掴んで無理矢理にその身体を起こす。


「さあ、これで邪魔は入ることはないですよ。安心してあなたを殺せます。何か考えがあったようですが、残念、無駄になりましたね」


「いや、無駄にはならなそうよ」


ジャズはニヤッと笑みを浮かべると、そこへ突然一台の装甲車が現れてヴェルサーのことをぶっ飛ばした。


その衝撃でヴェルサーが礼拝堂内へと吹き飛ばされると、プロコラットたちを囲っていた光の檻が消えていった。


運転していた人物が窓から顔を出して叫ぶ。


「パシフィカ·マハヤ軍曹! ただいまジャズ中尉を助けに参りましたッ!」

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