#337
ジャズを牢へと入れた後――。
ヴェルサーはシンのいる部屋へと向かっていた。
彼女はシンが吹き飛ばしてしまったことで、行方が分からなくなったミックスを信者たちに捜させていたが、未だにその足取りも掴めないままだ。
この
だが、
ふぅ、とため息をつきながら、そんな我が
「シン様。私です、ヴェルサーです。適合者の少年のことで報告があるのですが、お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「構わん。入れ」
了解を得たヴェルサーは、丁寧に頭を下げながら部屋へと入る。
シンは入ってきたヴェルサーのことなど見ずに、いつものように聖剣ズルフィカールを手に持って眺めている。
その姿は、手に入れたばかりの玩具を手放さない子供のようだ。
いや、刀身に映る自分の顔を見ている彼の今の姿は、まるでナルシストな男性のようで正直見ていて気持ち良いものではなかった。
「適合者の少年……たしかミックスとか呼ばれていたか? 見つかったのか?」
「いえ、未だに行方不明でございます」
「そうか。では、もしまた俺の前に現れたら邪魔をするなよ。今度は一対一で決着をつけるからな」
「……水を差すようで申し訳ございませんが、あまり無茶はしないほうがよいかと思います。相手は少年とはいえマシーナリーウイルスの適合者。けして油断できる相手ではないかと……」
「なんだ? お前は、俺があの少年に負けると思っているのか?」
シンはヴェルサーの忠告が気に入らなかったのか、剣を見つめるのを止めて彼女に詰め寄った。
彼は、頭を下げたままのヴェルサーを見下ろしながら、不機嫌そうに言葉を続ける。
「今の俺は聖剣の加護を受けている。これがどういうことかわかるか?」
シンは自分が選ばれし者――
人工的に造られたウイルスで変化する適合者でもなく――。
神具から啓示のみを与えられる
まさに神に選ばれた者である自分は、もはや伝説のヴィンテージにも負けることはない。
「有名なところではハザードクラスのブレイク·ベルサウンドが
ヴェルサーは顔を上げて誇らしげに語るシンに目を合わすと、再び丁寧に頭を下げた。
「仰る通りです。だからこそ教祖様もシン様に、プロコラットを捕らえるように命じたのだと思います」
「ふん、俺と同じく神具に選ばれたくせにつまらん男だったな。お前が女を使って脅したら何も言わずに拘束を望みやがった。あれでも陶器オオヅキに選ばれた男なのか? くだらん、全くもってくだらん」
そう言って鼻を鳴らしたシンは、部屋にあった椅子に腰を掛ける。
そして、機嫌そうだったその表情に、次第に笑みが浮かび始めた。
「だが、あいつは楽しめそうだ。ヴェルサー、あのミックスってのを捕らえたら、次はストリング帝国にでも乗り込むか」
「教祖様からの命があれば、私に反対する理由はございません」
「なら、お父様にお願いしてみるとしよう。よかったな、これでお前も出世できるぞ」
それから大声で笑いだしたシンの傍で、ヴェルサーはただ丁寧な物腰で頷くだけだった。
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