#335

シンはたった一度の踏み込みでミックスの目の前に現れて剣を振り落とす。


側面から斬りつけられた剣を機械化した腕で受けたミックスは、そのスピードに驚きを隠せないでいた。


「ほう、今のを止めるか。さすがは適合者。腕試しにはもってこいだな」


シンがそう言うと彼が手にしている神具――聖剣ズルフィカールが青白く光り輝いた。


そこからは再び剣を振られ、ミックスは両腕でなんとかその剣撃を受け止める。


奇跡人スーパーナチュラルが与えられる加護とは、七年前の戦争――アフタークロエ以降いこうに多く見られる超常ちょうじょう現象げんしょうのようなもの。


その加護を持つ者は持ち歩くには不自然ふしぜんな道具を使って、常人じょうじんとは思えない身体能力と科学では説明できない不思議な力をあやつる。


以前にブレイクと戦った経験からか、ミックスはなんとかその凄まじい剣速を防いでいた。


だが、防戦一方で反撃するほどの余裕はない。


ガキンガキンと金属が打ち鳴らされる音が礼拝堂内に響き渡る中、ジャズが叫ぶ。


「当然その勝負にはあたしも参加していいんだよねッ!」


そしてその咆哮の後に、銃剣タイプの電磁波放出装置――インストガンを撃つ。


しかしシンは剣を振る手数を増やし、その電磁波を打ち消す。


「当然参加は認めてやる。だが、こんなものでは俺を止められないぞ、帝国の女」


「そうね。でも、油断大敵――」


ジャズが言葉を言い切る前にシンの顔面に拳が打ち込まれた。


鋭い刃物のように突き刺さった機械の拳が、そのままシンの身体を吹き飛ばす。


鮮やかなステンドグラスを突き破り、壁に埋め込まれた宝石ごと外へと突き抜けた。


「ほら見ろ! こんなパンチぐらいでプロコラットは絶対に倒れない! お前なんかよりもあの人のほうが絶対にぜぇ~たいに強いんだッ!」


「めずらしくやる気なってるなぁ……。まあ、良い傾向か……」


ミックスは余程プロコラットのことが好きなのだろう。


ジャズはいつになく攻撃的なミックスを見てそう思った。


彼がプロコラットやユダーティとどういう風に出会い、そして親睦を深めたのかわからないが。


ここまで怒っているミックスは見たことがない。


ミックスは基本的に受け身なのだ。


しかし、今の彼は友人を攫われ、そして傷つけられた怒りに激しく燃えている。


「まあ、さっきまでとギャップがあり過ぎるけどね……」


「ジャズは下がっててッ! こいつは俺が一人でぶっ飛ばすッ!」


「あんたは友達を助けに来たんでしょ? そのためにあたしが手を貸してやるって言ってんの! さっさと片付けて逃げるよッ!」


ジャズの言葉に笑みを浮かべたミックスは、彼女のほうを見た。


その身体が震えているのがわかる。


当然だ。


ジャズはマシーナリーウイルスの適合者でも奇跡人スーパーナチュラルでも、特殊能力者でもない普通の人間なのだ。


それでも彼女は自身の恐怖を抑えつけ、勇敢にも自分に協力しようとしてくれている。


「そっか……そうだよね……。ありがとう、ジャズ」


そして、ミックスは吹き飛んでいったシンへ声を荒げる。


「どうした!? こんなもんで終わりかッ!? さっさと立ってかかって来いよッ!」


ジャズは、意気込みをあらわにするミックスのことを、いつも以上に頼もしく感じていた。

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