#334

その青年をほうを向いてジャズが口を開く。


「まさかいきなり出くわすとはね。というかあたしたちをここに誘い込んだって感じ?」


「えッ? ジャズはこの人のこと知ってるの?」


ミックスが小首を傾げて訊ねると、ジャズの顔が強張る。


「こいつはこの基地のボスだよ! それくらいさっきの言い回しで気付きなさいッ!」


「そんなのわかんないよ……」


察するのことができなかったミックスにジャズが怒鳴りあげると、青年は長い髪をかき上げて笑った。


表情が動くと、彼の右側の頬に入ったトライバルな刺青が歪む。


「ほう、さすがにわかるか」


そして宙に掌を差し出すと、彼の手に引き寄せられるようにどこからともなく剣が飛んでくる。


湾曲した刀身で先端が二股に分かれている剣。


持つ者を奇跡人スーパーナチュラルへと変える神具の一つ――聖剣ズルフィカールだ。


「当然でしょ。永遠なる破滅エターナル ルーインの最高指導者イード·レイヴェンスクロフトの息子――シン·レイヴェンスクロフト……。その名を知らない奴は帝国にはいない」


「シン·レイヴェ……クロ……って誰だっけ?」


「あんたねぇ……。忘れんじゃねぇよッ! さっき話したばかりだし今も説明口調で言ったでしょうがッ!」


「ごめん……。長くてややっこしい名前だから覚えづらかったんだよ……」


再び声を荒げるジャズに、さすがのミックスも申し訳なさそうに頭を下げていた。


頬に刺青の入った長髪の青年――シンは、聖剣ズルフィカールを肩にやると笑みを浮かべながら口を開く。


「敵陣に飛び込んできておいてその余裕。かなりの強者か、それともただの阿呆か。まあ、どちらでも構わん。さあ、かかってくるがいい」


「ひょっとして、あたしらと戦うためにここへ誘い込んだの? 大層な自信家ね」


「お前たちの目的はわかっている。あの奇跡人スーパーナチュラルを助けに来たのだろう? 俺に勝てたら引き渡してやってもいいぞ。まあ、あくまで勝てたらの話だがな」


そのシンの言葉にミックスの表情が変わると、彼の腕が機械化していく。


マシーナリーウイルスの適合者の力――装甲アーマードだ。


「お前がプロコラットを攫ってユダーティーを傷つけたんだな!」


「そうだ。自分の力を試すのに丁度いい相手を探していたんだが、部下が優秀過ぎて奇跡人スーパーナチュラルで腕試しできなかったからな。それに、あの男は女のために自分の命をゴミのように扱う軟弱者だ。お前もそうじゃないといいんだが」


「腕試しできなかった? ハハ、そうだと思ったよ。プロコラットが誰かに負けるなんて考えられないもんね。どうせズルいことしたと思ってた」


臨戦態勢に入ったミックスを見て、シンは剣を構える。


身体を横にし、右手で剣を持ったまま掲げで左手を相手に向ける彼の独特のスタイルに、ジャズは今まで知っている剣技とはまるで違うと警戒していた。


「気を付けてミックス! こいつはあたしらの知っている剣術とはまったく別物だよ」


「ああ、わかってるよ。それにこの感じ……。こいつ……ブレイクやクリーンと同じ奇跡人スーパーナチュラル――加護を受けた者だ」


ミックスがシンが奇跡人スーパーナチュラルであることを見抜くと、ジャズはならばその持っている剣が加護を与えているのだと推測。


ブレイクやクリーンベルサウンド兄妹が、小雪リトル スノー小鉄リトル スティールを刀に変えて戦っていたのと同タイプである判断した。


「その口ぶり……。どうやらお前たちには奇跡人スーパーナチュラルの知り合いがいるようだな。ならば、俺が勝ったらそいつらの居場所を教えてもらおうか」


シンはそう言うと、ミックスたちへ向けていた左足から踏み込んだ。

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