#328

それからユダーティは、ジャズに渡されたタブレット端末の操作方法をミックスに訊ねる。


だが、どうやらミックスも電子機器には疎いようで、結局は操縦中のジャズから口頭で使い方を教えてもらうことになった。


「……あんたさぁ。タブレットの操作方法も知らないで学校の授業とかどうしてんの?」


「だってこれ、学校のと全然違うんだもん。初めて触るものなんだからわからないのもしょうがないだろ」


「一つ例え話をしようか。車の免許を持っていて、普段から乗っている人なら乗る車が違くても運転できる。タブレットも同じはず」


「え~タブレットは違うよ。だって学校のやつはもっと感覚で操作できるけど、これはなんかよくわかんないし」


「ひょっとしてOSが違うのかな? それともあんたが単に物覚えが悪いだけなのか」


「ちょっとそれ酷くないッ!?」


ユダーティはミックスとジャズのやり取りを見て、クスクスと上品に笑っていた。


そんなユダーティにニコが嬉しそうに鳴くと、彼女はその電気羊の頭を優しく撫でる。


そして、タブレット端末を使ってメッセージを打ち込み、それを皆に見えるように掲げる。


端末の画面には“助けてくれてありがとう”と表記されていた。


続いてユダーティは、改めて自分の名前と簡単な挨拶をタブレット端末に表記させて、ペコリと丁寧に頭を下げる。


ジャズは彼女の姿――腕の見える服と顔も含めて全身が傷だらけの姿から、勝手にアウトローなイメージを持っていた。


最初にミックスから列車強盗をしようとしていた話を聞いたのもあっただろう。


だが、ユダーティの礼儀正しさやその微笑みを見て、 ただの悪人ではないと思い直す。


(見た目で判断しちゃうくせ……直さなきゃな……)


ジャズは内心で反省をし、ミックスと自分の差のようなものを実感していた。


このマシーナリーウイルスの適合者である少年は、見た目や経歴で他人を判断しないのだ。


そういうところは自分も見習わなければと、彼女は改めて思っていた。


「お~い、これからユダーティが事情を話してくれるみたいだから、ジャズには俺が端末の画面を読んで伝えるね」


「了解、活舌良くお願いね」


それからユダーティはタブレット端末に、何故追われていたのかを打ち込んでいった。


ミックスは先ほど言ったように、その文字をジャズに読んで聞かせる。


その内容は、あの科学列車プラムラインでユダーティと共に出会った人物――。


食物をつかさどる神具――オオゲツの加護を得た男プロコラットが、彼女を追いかけていた集団にさらわれてしまったという話だった。


その事実を知ったミックスは、その話が信じられなかった。


何故ならば、プロコラットは奇跡人スーパーナチュラルである。


一度プロコラットと戦ったことのあるミックスからすれば、彼の実力はバイオニクス共和国から最も優秀な人間と認定されている最高クラスの能力を持つ者――ハザードクラスレベルだ。


その実力ほどの知名度はないが、ブレイク·ベルサウンドと同じ加護を受けた奇跡人スーパーナチュラルであるプロコラットを捕まえるなど、それこそ一国の軍隊を総動員しなければならないくらいのはずなのだ。


「あの人を攫うなんて……一体どんな連中なんだよ……」


奇跡人スーパーナチュラルを捕まえるなんて、並みの集団じゃない」


操縦桿を握りながら息を飲むジャズ。


そして、彼女が一体どんな集団なのかを訊ねると、ユダーティがその正体をタブレット端末に打ち込んだ。


ミックスがその文字を読み上げる。


「シン·レイヴェンスクロフト……って、名乗っていたって……」


「シン·レイヴェンスクロフトって……。永遠なる破滅エターナル ルーインの指導者の息子じゃないのッ!?」

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