#300

ブレイクが三階から二階へと下り、そこから見下ろすと一人の男が立っていた。


顔立ちの整ったジャケット姿の青年。


年齢は二十歳くらいでブレイクよりも年上に見え、街で見かければモデルでもやっていそうな風貌ふうぼうだ。


そのジャケット姿の青年は、エレクトロンフォンを片手に誰かと話をしている。


「あん? 知らねぇよ。どうせ今回の揉め事でいっぱい死ぬんだ。俺は好きにさせてもらうぜ」


ラムブリオンの指示でも受けているのだろうか、それにしても聞こえてくる声はお世辞にも乱暴なものだった。


ジャケット姿の青年がエレクトロンフォンを切ると、ブレイクのほうを見上げる。


「よう、お前がブレイク·ベルサウンドだな。バイオニクス共和国最強の男がこんな子供ガキだったとはな」


「あん? 誰だテメェ?」


ブレイクは顔を歪めながら笑った。


そして伸縮式の剣を肩にやり、ゆっくりと階段を下りていく。


「俺を知らねぇのかよ? ほら、お前らが監獄プレスリーで暴れてたときに脱走した囚人だよ」


青年の正体は、ブレイクと同じく共和国からハザードクラスに選ばれている人物――。


還元法リダクション メゾットのコードネームで呼ばれているラヴヘイトだった。


ラヴヘイトは、以前に共和国にある刑務所である監獄プレスリーに収監されていた。


だが生物血清バイオロジカル監獄プレスリー襲撃よって彼は脱走し、そして今暗部組織ビザールに加入している。


「そうか、テメェがラヴヘイト……。なんだよ、早速ビザールに入ってお仕事か? クソ忙しそうでなによりなうえに、牢獄から生物血清バイオロジカル、さらに暗部組織と部署移動ばっかで大変だな。まるでサラリーマンみてぇだ」


「所属しているとこは問題じゃねぇ。俺は上層部と直接交渉するために動いてるだけだ」


ラヴヘイトは両手をズボンのポケットに入れたまま、ただブレイクが下りてくるの待ってた。


ブレイクのほうも、すでに剣の間合いに入った彼に対して飛び掛からずにいる。


そして、階段を下り切ると二人は向き合った。


心なしか、見上げれば三階まで見える広がっていた空間が、異様な緊張感を帯びているような雰囲気だ。


「おい、いいのかよ? 奇跡人スーパーナチュラルのお前には、なんか刀になる犬が必要なんだろ?」


「この屋敷はダイナコンプで能力が封じられている。リトルたちがいたところでどうせ力は発揮できねぇよ」


「そうか、お前……何も知らねぇんだな。まあいい、こっちはプラットホームステレオがある。だからハンディ戦になるが悪く思うなよ」


「やっぱテメェもなんかしらの特殊能力者なんだな。還元法リダクション メゾットってことは割引の方法でも教えてくれんのか?」


「さっきから言ってる台詞も、俺をからかうために仕込んできたんだろ。暗い部屋で徹夜でもしたか? 意外とチマチマしてんだな。共和国最強ってのはよ」


「テメェ……ブッた斬るッ!」


ブレイクはからかうつもりが逆に言い返されると、その身を震わせてラヴヘイトへと飛び掛かった。

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