#296

破壊されたプレハブ小屋。


その爆煙が舞っている光景を見ながら笑っている者がいた。


頭のてっぺんから伸ばしたポニーテールと、童顔で小柄だが胸と尻が盛り上がっているトランジスタグラマー体型の少女だ。


彼女は、身体の線がすごく強調されるパイロットスーツのようなものを着ていて、その小さな背中には青龍刀が見える。


「一人はハザードクラスって聞いていたけどさぁ。ま、不意討ちの大爆発には誰も勝てないでしょ」


彼女はブライダル――裏社会ではそこそこ名の通った傭兵だ。


ブライダルは、バイオニクス共和国の上層部の指示で、兵器研究所に入った白銀髪の女ミウムと、ハザードクラスであるブレイクを始末するように依頼を受けたようだ。


独自のルートで得た情報でブレイクの隠れ家を見つけ、問答無用で手榴弾を投げつけ、すでに仕事を終わらせたつもりになっている。


「さてと、それじゃ報酬をもらいに行きましょうかね~。あッでも死体の確認をしなきゃ。って、いってもこれじゃ跡形も残ってないかぁ」


粉々になったプレハブ小屋へと近づいていくブライダル。


だが、爆煙の中から出てくる人影が目に入る。


白髪の和装姿の少年――ブレイクだ。


「テメェ……人の家をぶっ壊しやがってッ!」


「ありゃりゃ、さすがはハザードクラスってか。でもまあ問題はないけどね。ねえ、あんたブレイクっていったけ? 私の正体を知りたくない? 知りたいよね? どうしてもっていうなら教えてあげてもいいよ。なんと私の正体はッ!」


「どうせ殺し屋かなんかだろ。金で動く馬の骨に興味はねぇ」


「ちょっと!? 馬の骨じゃないし! 私はこう見えてもこれからの物語で結構重要な役どころなんだよ! そりゃあんたは主役級かもしれないけどさ。今後の展開に大いに関わってくるんだよ! ちょっとこれを見てるいるみんなはわかってくれてるよね?」


「みんなって誰に言ってんだよ? イカれてんのかお前?」


ブレイクは腰に帯びていた伸縮式の剣を一振りした。


すると、重なってしまわれていた刃が飛び出す。


対するブライダルも背中に収めていた青龍刀を構える。


「まあ、あんたにそう見えるよねぇ……。はいはい、私はイカれますよ~。はぁ~あ~ホント辛い役目だわ、私。さっさと家に帰ってタコス食いながらルッキング·グラスのブランディ聴きたい。ああ、あとねぇ。ゆったりできるソファーと可愛くてモフモフのペットもね。動物はなんでもいいよ。そういえばさ、こないだの仕事でこんな大きなカンガルーがポケットから――」


「うるせぇよ……」


「まだ私が喋っているのに途中で止めないでよぉ。ねえねえ、それでそのカンガルーのポケットから何が出てきた思う? わかる? わかんないかぁ~。じゃあヒントはねぇ~」


「よく喋る女だな」


そう呟いたブレイクは剣を構えて踏み込んだ。


一瞬で相手との距離を詰める完璧な剣撃だ。


だが、ブライダルはその一撃を青龍刀で受け止めてまだ話を続けている。


「ヒントはあれだよ、ボクシング。これでわかるでしょ。カンガルーとボクシングっていったら~」


「今のを止めるとは……どうやらただお喋り女じゃねぇみてぇだな」


ブレイクは呆れながらも剣を振り続けたが、ブライダルの言葉が止まることはなかった。


剣を見事にさばきながらもカンガルーの話を継続中だ。


「わかんないかぁ~。ハザードクラスなのに頭悪いんだね、あんた。しょうがない、じゃあ答えを言っちゃうよ~。正解は――」


ブライダルが勝手に出した問題の答えを言おうとした瞬間――彼女の顔面がレーザー光線によって吹き飛んだ。

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