#272

ミックスの姿――いや、その機械の腕を見たプライダルは、摘まみ上げていたニコを落としてしまう。


そして、両目を見開きながら体を震わして激しく動揺していた。


その間に、ニコはミックスの後ろへと回ってジャズの元へ行き、彼女に抱きつく。


「ニコ、ごめんね、危ない目に遭わせて」


ジャズの言葉にニコも彼女の無事を喜んで鳴き返した。


そして、彼女たちが互いに怪我がないことを確認した後に、再びブライダルを見ると――。


効果装置エフェクトかと思ったら、マジで適合者じゃん……。本物じゃんよッ! ヤバッ! 正真正銘の装甲アーマードが私の目の前にッ!!! ヤバいヤバいヤバいって! マジでヤバくねッ!?」


突然恍惚こうこつの表情で叫び出した。


(そういえばこの子、アン·テネシーグレッチのファンとか言っていたっけ……)


狂乱するブライダルを見たジャズは、元々変な奴と思っていた彼女がさらにおかしくなったと思っていた。


自分も初めてミックスのことを――ヴィンテージ以外のマシーナリーウイルスの適合者のことを見たときは興奮したが、ここまであからさま喜んでみせたりはしなかった。


ブライダルのこの喜びようは、もはやファンを超えて崇拝の域である。


「ねえお兄さん電撃は!? やっぱ適合者っていったら機械の腕から電撃でしょ!? 私に向けて撃ってみてよッ!」


「電撃? そんなことできないけど……」


「えぇッ!? なんだできないのかよ……。しゅん……」


「いや、あの……なんかゴメンなさい……」


分かりやすく肩を落としたブライダルに、ミックスは条件反射的に謝ってしまった。


ジャズとニコは、「いや、なんでお前が謝るんだよ?」とあきれている。


だが、ブライダルはすぐにムクッと顔を上げて笑みを浮かべた。


「ヒロインを助けるためにヒーローが飛び込んでくる……。お決まりのパターンだね。でも、こんなのみんな見飽きてんでしょ?」


「誰に向かって言ってるの? ひょっとして俺たち?」


訊ねたミックスを無視してプライダルは言葉を続ける。


「でもさ、こりゃ私にもどうすることもできないんだわ。本当は見張りの人たちも殺そうと思ってたんだけど、なんか殺る気になれなかったし。どうやらこのヒーローが出てくる話じゃ誰も殺せないらしいね~」


「さっきからなにを言ってんのさ?」


「だけど、それをくつがせたら面白くない? 誰も死なないはずの物語で、ヒーローがヒロインを守れずにズタズタにされてうつエンドってさ」


「なにを言ってるのかよくわかんないけど……。まだ戦うつもりなら相手になってやるッ!」


威勢いせいだけはいいね、お兄さん。異性いせいの前にだけに。フフフ……フッハハハッ、ギャッハハハッ!!」


「……なんか真剣にやってるのがバカらしくなってきた……」


そして、ミックスとブライダルは向き合った。

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