#270

「終わってないだって……? あんたの依頼主は脱走軍じゃないの?」


「あぁ、そうだよ。それにしてもここ、デカい城塞だね。そこに私らだけしかいないって、面倒な人物描写や情景描写をはぶきたいっていう作者の魂胆が見え見えだわ。てゆーか、帝国も紺色じゃなくて真っ黒な軍服にしちゃえばいいじゃん。だって思春期の私たちは上から下まで全身黒が大好きなんだから」


ブライダルは言葉を吐き出しながら、分厚刃を持つ青龍刀で斬り掛かってきた。


対するジャズは手に持っていた銃剣タイプのインストガンでそれを受ける。


「クサレビッチをぶちのめせッ! うん? 言葉が汚いって? そうだよねゴメンゴメン。お姉さんはビッチって感じじゃないもんな~。そのサイドテール似合ってるもんね。私も仲間だよ。このポニーテール見りゃわかるでしょ? 見た目は大事。可愛いは正義。ルックスは重要だよね~。それが日本でグランジが流行らなかった理由だもん。しょうがないよね~みんなヘビメタみたいな派手な格好のほうがわかりやすくて好きなんだもん」


ジャズは思う。


この傭兵の少女は喋りながらのくせに、なんてするどい剣撃を繰り出すのだろうと。


青龍刀をまるでフェイシングのレイピアみたいに振り回すブライダルは、さらに言葉を繋いでいく。


「あ、でも私、別にグランジフリークじゃないよ。私はあのチェック柄のネルシャツとダメージデニムとコンバースのスニーカーを制服みたいに着て、何ヶ月も洗ってない脂っぽい髪は大嫌い。まあ、カートはキュートだけどね~。ところでお姉さんはどんな音楽が好きなの? まさかグランジ? そいつはディスっちゃって悪かったね」


「くッ!? あんたの目的はなんなの!? お金? それとも名声がほしいのッ!?」


ジャズはインストガンの先に付いたナイフを突き、ブライダルの肩を狙った。


彼女も幼い頃から訓練を積んだストリング帝国の兵士だ。


いくらブライダルの剣撃がすさまじくとも、単調な攻撃が続けばそのすきを突ける。


ナイフがブライダルの肩に突き刺さり、血が部屋へとまき散らされた。


すでに血塗れのブライダルの体に今さら目立ちはしないが、ジャズは彼女を見て驚愕してしまう。


それは、傷つけたブライダルの肩の傷口が、みるみるふさがっていったからだった。


「もちろん、今お姉さんが言ったもの全部好きだよ。だけど、それよりももっと楽しいことがある」


先ほどの攻撃でジャズから距離を取ったブライダルは、青龍刀を背中に収めて嬉しそうに言う。


「仕事相手が喜んでくれることだよ。私は私が楽しむために生きる。今回だってそうさ。気に入った相手が依頼人なら、報酬をほんの少し割り増ししてお返しするんだよ」


「あんたの依頼主はトランスクライブたちじゃないの!? さっきの話を聞く分に、もうこんな戦いに意味なんてないでしょ!?」


「あるんだな~これが」


それからブライダルは何故ジャズを襲っているかを話し始めた。


彼女が言うに、これからトランスクライブら脱走軍はノピア·ラッシクの庇護下に入る。


しかし、何の罰も受けずにすんなり入れるわけでない。


誰かがこの城塞を攻撃していたとがめを受けなければならない。


「簡単言うとさ。私がここでお姉さんを殺して、トランスクライブたちが全部私の指示でこの城塞を攻撃してましたって言えば、それで解決ってわけよ。もうその話の電子郵便を送ってあるしね」


「じゃあ、あんたはトランスクライブたちのために?」


「気に入った相手が喜んでくれたら楽しいだろ? ホントはスピリッツのおじさんのでもよかったんだけどさ。私、あのおじさんのこと気にいっちゃったからね。つーわけでぇ、お姉さんに恨みはないけど、ここで死んでもらうよ」


完全に肩の傷が再生したブライダルは、次に腰から取ったハンドガンをジャズへと向けた。

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