#268

ストリング帝国の戦闘車両であるプレイテックの操縦は、基本的には普通の車の運転とさほど変わらない。


だが、まだ高校一年生であるミックスは当然免許証など持っていない。


バイオニクス共和国での普通自動車免許を取得できる年齢は十八歳からである。


ミックスはまだ十五歳。


もうすぐで十六歳になるが、車の免許を取るにはまだ二年も先だ。


それでもハンドルを握ってアクセルとブレーキで操作することは知っていた。


幸いなことに乗り込んだプレイテックにはキーが差してあり、しかもマニュアルではなくオートマチック。


少し不安定な走り方だが、車の運転の経験がないミックスでもなんとか操縦することができていた。


「いや~ここが砂漠さばくでよかったよ。おかげで誰にもどこにもぶつからないからね」


少し運転に慣れてきたミックスは、アクセルをさらに踏み込む。


彼の言う通り周りには砂しかなく、せいぜいサボテンやくずれてボロボロなっている建物があるくらいだ。


「そういえばここの法律ってどうなってるんだろ? まさか後で帝国の人に無免許運転で捕まったりしないよね……」


その前に窃盗罪で捕まると思われるが、どうもミックスには車を盗んだという自覚はないようだ。


ミックスは、そんなことを考えていると突然顔をブンブン左右へと振った。


「今はそんなことよりもジャズだ!」


そして、そう叫ぶと先ほど踏み込んだアクセルをべた踏みにし、全速力で城塞へと向かった。


――その頃、ジャズは城塞内にある自室で、眠っているニコを抱いてぼんやりと窓から外を見ていた。


城塞内にはわずかな見張りを残し、すべてライティングと共に出て行ってしまっている。


この状況でもし敵に襲われたらひとたまりもないが、永遠なる破滅エターナル ルーインの脱走軍は、今頃はライティングの連れていった軍を対面しているはず。


ジャズはむしろそちらのほうが心配だった。


しかし、彼女は思う。


ミックスはライティングと帝国兵たちに追いついただろうか。


いや、大丈夫。


あの男はあれで結構頼りになる――。


そう思いながら抱いていたニコをベットに寝かした。


「ね、ニコ。ミックスならなんとかしてくれるよね……」


ベットで気持ちよさそうに眠っているニコへジャズは声をかけた。


それは、ニコに訊ねるというよりは自分に言い聞かせているみたいだった。


ミックスはマシ―ナリーウイルスの適合者。


彼は自分の身体を機械化することで、その身体能力を爆発的に向上することができる。


だが、ジャズは彼と違い普通の人間だ。


ライティングたちに追いつくための乗り物がない状態では、もはや車のように速く走れるミックスに頼むしかなかった。


肝心なときにいつも役に立てない自分に、ジャズは無力感を覚える。


いつもそうだ。


口では偉そうなことを言っておいて、結局ミックスにお願いしてしまう。


彼が力になってくれることは嬉しい。


しかし、そのことで彼女はいつも自分の力のなさに打ちのめされる。


「悲劇のヒロインって感じのツラだねぇ、お姉さん」


「誰ッ!?」


ジャズが声のするほうを振り向くと、そこには血塗れの少女が笑って立っていた。

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