#245

ミックスがライティングに用意してもらった部屋は、別にこれといって特徴のない簡素かんそなものだった。


窓が一つと簡易ベットが置いてあるだけだ。


ジャズやライティングがいたところとそう変わらない。


「そういえばご飯は? 実はちょうど食べるときに連れてこられたからお腹がペコペコなんだよね」


「ああ、だったらちょうどいい」


ジャズはそういうと、ポケットに手を伸ばして小さな袋をミックスへ投げた。


彼は怪訝けげんな顔をしながら袋を開けて中身を出すと、ブロック状のものが出てくる。


「なにこれ? クッキーかなにか?」


それは柔らかく水分が少ない四角い固形で、クッキーというよりもショートブレッドに近いものだった。


携帯食糧レーションだよ。それで一食分の栄養が取れる。帝国では一日の食事をそれで済ます者も多いわ」


「へぇーこんなのでね」


ミックスは早速パクっと食べてみた。


モソっとした麦のパンのような食感で、正直そんなに美味しくはない。


携帯食糧レーションは――。


·兵士の栄養状態を保つためのもの。

·大量に生産でき、なお補給路を断たれても長期間保存できるもの。

·戦地に置かれ、火も水もない状況でも食すことができるもの。


と、いった条件のもとに作られている。


そのため、味はミックスが感じた通り美味しいとはいえない。


そもそもストリング帝国では、オート·デッシュという自動調理器があり、本体にカードリッジをはめみ、後は食べたい料理のスイッチを押せば、カロリー計算けいさんされたものが出てくる機械があるため、自分で料理するものなどいなかった。


今ミックスが食べた携帯食糧レーションもオート·デッシュで作られたものだ。


料理を好きで美味しいものを食べることが好きなミックスからは考えられないが、帝国の人間の多くが未だにそういう文化の中で生きている。


「こんなものばかり食べてたら、そりゃ味オンチにもなるよなぁ……」


「ふざけたこと言ってないで、今日はもう寝な」


ジャズは、携帯食糧レーションに頬張るミックスにそういうとニコを連れて部屋を出ていこうとしたが、急にクルッと振り返った。


何故かニコも遅れながらも彼女のようにクルリと体を動かし、振り返った真似をしている。


「あと、寝る前にシャワー浴びな。それからちゃんと歯もみがくように」


「シャワーなんてどこにあるんだよ?」


「そこにドアを開ければあるよ。バスタブはないけどね」


「ねえ、この城塞にキッチンはないの? 携帯食糧レーションなんか毎日食べたら病気になっちゃうよ」


「いいからさっき言ったことやって寝なさいッ!」


ジャズはそういうと、部屋をバタンと閉めて出て行った。


もちろんニコも彼女と共について行っている。


ミックスは、たとえ不味くとも残すのはよくないと携帯食糧レーションを口へ放りんだ。


「マズッ……」


そして、ジャズが普段の調子に戻ってきていることを喜びながら、そうつぶやいた。

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