#229

――ブロードに担がれ、意識を取り戻したクリーンはロウルが持つ呪いの儘リメイン カースみなもとである処女ヴァージンの結界を破り、運動場へと足を踏み入れていた。


そして、激しくぶつかり合うウェディングとロウルと姿を確認にする。


おそらく病院にミックスが運び込まれたことをどこかで聞いただろう。


ウェディングは大事な先輩を守るために戦っていた。


ブロード、ヘルキャット、アリア三人と、離れた位置からハザードクラス同士の戦いをながめている。


そのすさまじい破壊音、衝撃波の余波よはがクリーンたち四人に注ぎ、ただ立ち尽くしているだけの状態だ。


「あれがハザードクラスの戦いなの……」


ヘルキャットがポツリと口にした。


それは傍に立っている四人を代弁だいべんしてるかのような言葉だった。


特に、ウェディング、ロウルをよく知っているクリーンからすれば、もはや彼女が知っている実力以上の力でもっての激闘げきとうだ。


クリーンはウェディングとはよく剣の稽古けいこをしていた。


そのときはほぼ互角ごかく


わずかの差でクリーンが勝ち越している。


だが、今目の前でダイヤの剣を振っているウェディングは、クリーンの知る彼女ではなかった。


(これがウェディングの力……。彼女は私に手加減していたのですね……)


何がヴィンテージの娘だ。


止めようとした相手に同情され、友人に助けられて――。


すべて自分の弱さが原因ではないか。


クリーンは、その弱さゆえにウェディングやロウルに気を遣わせたことに肩を落とす。


「こんなの……普通の人間が入っていけるわけないじゃない……」


またもヘルキャットがポツリといった。


ストリング帝国の大佐であるブロードはもちろん(ハザードクラスが、敵国だったバイオニクス共和国の選んだ最も優秀な人間といわれているため)、ヘルキャットとアリアもウェディングのことは知っている。


ヘルキャットは今回の任務を言い渡されたときに、ミックスを守って以前の借りを返そうと意気込んでいた。


たとえハザードクラスが相手でも戦えるように、いつも以上の訓練や装備、対応力をみがいていたのだ。


それはアリアも同じだった。


彼女は自分でも気が付いていないが、ミックスに好意を持っていたこともあって、たとえ自分の命を投げ出すことになろうとも任務は遂行すると覚悟に決めていた。


クリーン、ヘルキャット、アリア三人の少女は、そんな気持ちが入り込めないほどの差を、目の前の戦いから感じてしまっている。


表情はうつろで、膝から力が抜け、今にも倒れてしまいそうだ。


その圧倒的な無力感を味わう三人を置いて、ブロードは一人前へと出る。


「大佐……まさか行くつもりですか?」


震える声でアリアが声をかけた。


目の前で“あれ”を見てなお戦うつもりなのか。


もはやあの戦いには、たとえマシ―ナリーウイルスの適合者、奇跡人スーパーナチュラル呪いの儘リメイン カースのような特殊能力を持った者でも入り込めない領域りょういきだと、彼女はブロードのことを止める。


「だが、もしあいつがここいたら、迷わず仲間を助けに行くんじゃないか?」


三人はブロードのいう“あいつ”が誰なのかをすぐに理解した。


その通りだ。


あいつが自分の後輩――ウェディングが戦って傷ついている姿を見たら、相手の強さなどに構わずに、拳をにぎりこんで飛び込んでいくだろう。


そんな考えなしのあいつに救われたというのに、自分たちは何を考えているのか……。


しかし、それでも三人は、出て行ってもウェディングの邪魔になるだけだと思うと、その足を動かすことができなかった。

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