#224

「う、嘘でしょ……?」


ヘルキャットの自分の命を懸けた攻撃――。


手榴弾で自分もろともロウルを爆破する作戦は失敗に終わった。


それはロウルが一瞬で彼女から手榴弾を奪い、それを自分の身体を丸めて受け止めたからだった。


「手榴弾でも俺はれねぇな」


それでもロウルには傷一つ、いや焦げあと一つない。


刃物でも電磁波でも爆弾でもこの男を倒せない。


ヘルキャットは爆風で吹き飛ばされて地面に転がると、もうその目からは戦意が消えていた。


ただの人間である自分ではそもそもかなうはずがなかったのだ。


「どうすればこんな奴を倒せるのよ……どうすればあいつを守れるのよッ!」


地面に横たわり、もはや立ち上がることもできずに叫ぶヘルキャット。


もうこのまま自分たちは、ロウルに始末されるのだと思い、死ぬ覚悟を決める。


だが、そのとき――。


ロウルは倒れているヘルキャットたちに目もくれず、突然処女ヴァージンまたがって飛んで行ってしまった。


何故自分たちに止めを刺さずに行ってしまったのか。


ヘルキャットが呆然ぼうぜんとしていると、そこへ先ほどはるか後方に吹き飛ばされブロードがやってくる。


頭から血を流し、着ているストリング帝国の軍服もボロボロになっていた。


ブロードはフラフラと歩いてくると、まずアリアを起こし、クリーンを抱きかかえ、ヘルキャットへと近づく。


「いつまで寝ている。さっさと起きて戦闘の準備をしろ。これから奴を追うぞ」


「大佐……。わ、私は……」


「お前の強さは俺が誰よりも知ってる……。一度や二度失敗したくらいで立ち上がれなくなるような奴じゃないとな」


ブロードがヘルキャットに背を向けながらもそういうと、アリアが何も言わず彼女を抱きしめた。


――ヘルキャットが再び立ち上がったとき。


そこから数百メートル離れた運動場に、二人の人物が向かい合ってた。


一人はロウル·リンギング。


ロウルは処女ヴァージンの力で結界を張り、ここら一帯に誰も入って来れないようにしていた。


そして、もう一人は――。


「あなたがミックス先輩を粉砕するとかいっている人ですね」


まだ幼さの残るその少女の顔は怒りでゆがんでいた。


両方の手の甲からはダイヤモンドのつるぎが飛び出し、それが月夜に照らされて輝いている。


その姿を見れば、この国の人間なら誰でもわかる。


ロウルと同じくハザードクラスに数えられる女子中学生――。


舞う宝石ダンシング·ダイヤモンドことウェディングだ。


「そういえば、共和国にはブレイクとラヴヘイト以外にも学生のハザードクラスがいたな」


ロウルは、彼女の気配にすぐに気が付いたのだろう。


おそらく処女ヴァージンを使って結界を張ったのは、これから起こる戦いに、関係のない人間を巻き込まないためだ。


「だが、無暗むやみやたらと力を振るわないと聞いてたんだが。それでも俺とやる気かよ?」


「当然です」


彼女は即答そくとうした。


「大事な人が傷つけられてじっとしていられるほど、私も人間ができてないですから」


ウェディングは時を置かずに言葉を続ける。


「あなたはスゴイ人なんでしょ?」


「俺を知ってるのか? ハザードクラスとかそういうことに興味なさそうに見えたが」


「カシミアから聞きました」


「カシミア? たしかグレイファミリーの娘だったか……。じゃあ、お前も――」


「ゴチャゴチャうるさいですッ!!」


ウェディングの一喝いっかつで周囲の大気がふるえた。


そして、彼女はドスンッと運動場のグラウンドを踏みつける。


「私はなにがあろうと友人と先輩を守りますッ! まだ死にたくなかったら、今のうちにさっさと尻尾しっぽを巻いて逃げてくださいッ!」


大事な人を守るために――。


舞う宝石ダンシング·ダイヤモンドがダイヤの剣を向ける。


二人のハザードクラスの視線が真正面からぶつかり合った。


それが始まりのゴング。


世界に五人しかいない怪物同士の戦いが、今ここに始まる。

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