#203

「あぁ……なんだかんだでいつもめたお金が出ていっちゃうな……」


エレクトロフォンで電子マネーの残高ざんだかを見たミックスは、ガクッと肩を落としていた。


それは今さっき彼がいったように、高校生になってからというもの毎月自分には関係のないところで出費しゅっぴが続いていたからだ。


パッと思い出すだけでも――。


ジャズに電気仕掛けの仔羊こひつじニコをプレゼント。


ファミリーレストランでクリーンの食べたおそろしい量のうどんの支払い。


そして、幼女ようじょサービスと行ったアミューズメント施設しせつの料金など、どうしてだかミックスのコツコツ貯めた金銭は風と共に消えてしまう。


自分はいつになったら念願ねんがんの調理器具を手に入れられるのか――。


そう思って歩くミックスの足取りは重い。


「おい、あまりはなれないでくれる?」


「ちゃんとそばにいないとミックスくんをまもれませんからね」


すると、ミックスをはさむようにヘルキャットとアリアが近寄ってくる。


そんな二人の様子を見ていると、なんだかんだ言いつつも購入こうにゅうした服を気に入っているようだった。


そでを通したばかりの上着をたしかめるように見ながら、クスっと笑みを浮かべている。


「でもまあ、こんなもんだよね……。二人もよろこんでくれているみたいだし、結果オーライってことで……」


「なにを一人ブツブツいってるのよ?」


「気になったことでもあったんですか?」


かわいた笑みでつぶやいたミックスに、ヘルキャットとアリアがたずねると、彼はなんでもないと返事をした。


そんな三人の様子を見たクリーンは、眠たそうな顔をしていながらも微笑ほほえむと、三人にこの後はどうするかを訊ねた。


ミックスはせっかく街に出たんだから、どこかでお茶でも飲んでいこうというと、ヘルキャットとアリアは反対する。


二人は彼に、ねらわれている自覚じかくはあるのかというのだ。


だがミックスは、街中ならおそわれてもすぐに監視員バックミンスターがやってくるから問題ないと言葉を返した。


「そうはいっても相手はあのロウル·リンギングなのよ」


「そうですよ。うかつに出歩くのはやっぱり危険です」


それでも食い下がるヘルキャットとアリア。


そんな三人を見ていたクリーンが、一体何の話をしているのかを訊ねると――。


「な、なんでもないよッ! それよりもどこへ行こっか?」


ミックスは必死ひっしになって誤魔化ごまかした。


彼の態度にキョトンとしているクリーンだったが、眠たそうな顔でいつも行っているファミリーレストランはどうかと答える。


それを聞いたミックスは、ヘルキャットとアリアのほうを見た。


「二人とも、さすがにファミレスは知ってるよね?」


「バカにするな。“ふぁみりーれすとらん”くらいわかる」


「ふぁみりーれすとらん……りゃくして“ふぁみれす”ですね。主に家族を客と想定した大衆食堂。外食産業の一つでチェーン店として営業するものが多いのが特徴とくちょうですね」


ヘルキャットが鼻を鳴らすと、アリアが知っていることを口にする。


どうやらさすがにファミリーレストランくらいは知っているようだ。


それならばとクリーンが両手をポンッと合わせ、早速行こうということになった。


「あそこならニコもリトルたちも入れますからね」


「それよりもクリーン……実は、エレクトロフォンの残高が心もとないんだけど……」


とても言いづらそうにいうミックスに、クリーンはニッコリと微笑み返す。


大丈夫、今夜はすでに夕飯を終えてきたので、こないだのように食べたりしないと。


ミックスはそれを聞いてホッとする。


それは、以前にクリーンとファミリーレストランへ行ったときに、凄まじい量のうどんを彼女が平らげたからだった。


だがよくよく考えてみると、何故自分がお金を払うことになっているのかに気がついたミックスは、クリーン、ヘルキャット、アリア三人へ声をかける。


「あのさ、次の店は割りかんで……」


「さあ行きましょうッ!」


――たのだが、三人は足早に歩いていってしまった。


そんな彼女たちの背中をながめながら、ミックスはボソッという。


「でもまあ……こんなもんだよね……ハハハ……」


そんなかわいた笑みを浮かべた彼の傍では、ニコがため息をつき、小雪リトル スノー小鉄リトル スティールが二匹同時にワオーンと遠吠とおぼえをするのだった

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