#117

食堂車へ向かうミックスとジャガー。


三等客室からはとなりの車両なので、少し廊下ろうかを歩いて連結部のとびらを開ければ到着とうちゃくだ。


「わぁ、ずいぶんと混んでるな」


中の様子を見たミックスが思わず声をあげる。


食堂車では様々さまざまな客室の人間がディナーを満喫まんきつしていた。


この食堂車もまた大昔の王室列車をモデルにしており、木製に見えるデザインのテーブルの上には、豪華ごうか装飾そうしょくほどこされている。


まどから見える夕日も手伝ってか、まるで映画のワンシーンのような光景こうけいだ。


この食堂車は、VIPあつかいの一等客室の客だろうが、安い三等客室の客だろうが客室に関係なく誰もが使用できる。


だが、一等客室の客の姿すがたは見えない。


それは多くの一等客室の人間が、自分の部屋にルームサービスをたのむのが当たり前になっているからだ。


まれに食堂車を使用する一等客室の者もいるが、きっと多くの金持ちたちは、貧乏人びんぼうにんと一緒に食事をしたくないのだろう。


「もうテーブルは無理そうだな」


「そうだね。あッ、でもカウンターなら空いてそうだよ」


食堂車の半分にはテーブルがならべられており、のこりの半分には厨房ちゅうぼうとカウンター席がもうけられている。


ミックスたちは、テーブルはすでに埋まっていたため、奥にあるカウンター席へ向かう。


この王室のような食堂車の雰囲気ふんいきこわさないためか。


調理ドローンや料理を運ぶドローンも何故かメイド服姿だ。


大きな鍋に二本のワームが付いたドローンに、黒のワンピースとフリルの付いた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレス姿に、頭にはこれまたフリルの付いたカチューシャが乗っている。


ただの無骨なドローンよりは可愛げがあるようで、そんなドローンの姿を可愛いとさえいう客もちらほら見かける。


そんなメイド服ドローンたちは、せまい厨房や並ぶテーブルのあいだをせわしなく動いて、料理や芳醇ほうじゅんなワインのかおりを振りまいていた。


調理ドローンの作るメニューのはばは広く、ファーストフードのようなジャンクなものから、高級料理のフルコースを思わせる肉魚料理まである。


とはいっても、あまり珍しいものはやはりなく定番の料理ばかりだ。


「ちょっと二人とも!」


カウンター席までの移動中、アミノがミックスとジャガーに声をかけた。


彼女は同じ部屋の生徒と料理を食べていたようで、そばにいた女子たちも彼らに手を振っている。


アミノは自分がカウンター席へ行くから二人は、女子たちと同じテーブルに着くようにといってきた。


テーブルは六人席なのだから、自分がカウンター席へ行けば座れると。


だが、ミックスもジャガーもアミノの提案ていあんことわる。


「そういってくれるのは嬉しんですけど。ねぇジャガー」


「ああ、オレらはカウンターでいいっすよ。先生はみんなとここで楽しんでください」


「いいから二人ともここに座ってください。私は先生としてあなたたちが安心して食事できるようにと――って、無視むしですかッ!?」


ミックスとジャガーは話が長くなりそうだったので、アミノのことをほうっておいてカウンター席へと向かって行った。


そんな二人の背中からは「ミックスくんとジャガーくんは先生が嫌いなんですね……」とすすり泣くアミノの声と、それをなぐさめる女子たちの言葉が聞こえている。


「気を使い過ぎなんだよね、アミノ先生。食事のときくらい、俺らのこと気にしないでいいのに」


っからの教師きょうしだからなぁ、アミノ先生は。じゃなきゃオレらだってこうやって修学旅行に来れなかったし。わざわざ戦災孤児の学校を受け持とうなんて思うような人は、あの人くらいなもんだ」


「なんだっけ? アミノ先生って元々もともとはどっかのエリート校の先生だったんだっけ?」


「ああ、お前の彼女や後輩こうはいかよってる学校にいたって話だ」


「……もしかしてジャズのことを言ってるの? 別に、あの子は彼女とかじゃないんだけど」


「夏休み中ずっと一緒にいといてよくそんな嘘がつけるな。いいよなぁ、ミックスはよぉ。ああ~オレも女ほしいわぁ」


「俺だって……出会いないよ。グェッ!」


ミックスがそういった瞬間しゅんかん


彼の頭の上にゲンコツが落とされた。


痛がるミックスを置いてジャガーはカウンター席へと歩いていく。


「なんで……なぐられなきゃいけないんだよ……」


ミックスはどうして自分がゲンコツを喰らわされたのかわからず、頭を抱えながら彼の後に続いて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る