#84

部屋へともどったミックスは、まずサービスとニコに手をあらうようにいう。


それから自分も洗面所せんめんじょに行くと、あることに気がついた。


「そうだ。ついでにお風呂ふろにも入れて体も洗っちゃおう」


ミックスがそう言いながらサービスの羽織はおっていた布切ぬのきれをがそうとすると――。


「なにしてのよ、あんた?」


いつの間にか勝手かってに部屋へ入ってきていたジャズが、その表情ひょうじょう強張こわばらせて立っていた。


ミックスは何故彼女がそんな顔をしているかわからず、これからサービスを風呂に入れるためだと説明せつめいした。


すると、ジャズの表情はさらに強張り、ほうけているミックスにそのするど眼差まなざしをすように向ける。


「あんたね、あたしがさっきいったことをもうわすれたの?」


「さっきいったこと? なんだっけ? もう忘れちゃったけど、それがサービスを風呂に入れるのに関係かんけいあるの……って、ちょっと待ってジャズッ!? ぎゃあぁぁぁッ!」


ワナワナと身をふるわせたジャズは、そんなミックスのひたい頭突ずつきをらわした。


いたみでのた打ちまわる彼を見下みおろしながらジャズは、サービスが女の子だということを忘れるなという。


「あんたね、さっきもいったけど。サービスは女の子なんだよ。それなのに一緒いっしょにお風呂なんて、イヤらしいにもほどがあるわ」


「なんでそうなるんだよ。そりゃサービスがいやがったらやめるけどさ。別に本人が気にしてないんだからいいじゃないか。それにうちではいまだに兄さんと姉さんと三人で風呂に入ってるし、一緒に風呂に入るくらいでそこまでおこることないだろ」


その話を聞いたジャズは絶句ぜっく


言葉をうしなって立ちくす。


ミックスはもう自分と同じ十五才の高校生だ。


そんな思春期ししゅんきの男子とはだかの付き合いをする姉がいるとは、この男の家はどうなっているのだろう。


兄ならまだしもおそらく大人の女性である姉と風呂に入るのは、いろいろ問題もんだいがあるじゃないかと、彼女は思っていた。


「ともかく、サービスはあたしがお風呂に入れるから、あんたはご飯の仕度したくでもしておいてッ!」


そして洗面所から追い出されたミックスは、に落ちない様子ようす夕食ゆうしょく準備じゅんびへと取り掛かるのだった。


そのあいだ浴室よくしつでは――。


湯船ゆぶねにお湯がまるまでの時間に、よごれていたサービスのかみや体を洗おうとしていたジャズだったが。


サービスはニコを抱きしめてはなさないため、なかなか上手うまく洗えずにいた。


「いいからニコを離しなさい! それじゃキレイにできないじゃないのッ!」


「うぅ……ヤッ! ヤダもん」


ちからづくでニコをサービスから引きはがそうとするジャズ。


だが、サービスもはなしてなるものかと精一杯せいいっぱいの力をめる。


二人から引っ張られたニコはくるしそうにいている。


「なんか、悲鳴ひめいが聞こえるんだけど……大丈夫か?」


その鳴き声は台所だいどころまでとどいており、ミックスはフライパンをにぎりながら心配しんぱいしていた。


それからジャズたちが風呂からあがり、リビングへと出てくる。


そのときのジャズとニコの様子は、まるで最終さいしゅうラウンドまでたたかいきったボクサーのように疲労ひろうしていた。


反対はんたいに何故かサービスはご機嫌きげんで、彼女たちを待っていたミックスへと抱きつく。


「だ、大丈夫? なんかすごくつかれているみたいだけど?」


「子どもをお風呂に入れるのが、こんなに大変だったとは思わなかったわ……」


グッタリしているジャズに続き、ニコもメェーと弱々よわよわしく鳴いた。


ミックスはそんな彼女たちとはしゃぐサービスにすわるようにいうと、早速さっそく出来たばかりの料理をはこんできた。


食欲しょくよくをそそるにおいがしたせいか、ジャズとニコが運ばれてきた料理を見て目をかがやかせている。


すべての料理を運び終えたミックスもこしを落とし、全員がテーブルに着く。


それからミックスとジャズ、ニコが手を合わせ、いただきますと声を出した。


サービスは一体何をしているのかと、不思議ふしぎそうにミックスたちを見ている。


「どうしたの? 食べないのハンバーグ? このお兄さんの作る料理はとってもおいしいんだよ」


そういったジャズは、フォークに自分のさらにのったハンバーグを突き刺し、彼女の前へと出す。


サービスはくびかしげて、ただハンバーグを見つめていた。


「はい、口を開けて。あ~ん」


「あ~ん」


ジャズはそう言いながら口を開けると、サービスも彼女の真似をした。


それから大きく開いたサービスの口の中に、ハンバーグを入れる。


「うんッ!?」


「どうおいしい?」


「うん! おいしいッ!」


サービスは笑顔でそういうと、すさまじいいきおいで料理を食べはじめた。


そして、あっという間にたいらげてしまうと、いきなりテーブルに体を預けてねむってしまう。


「あらら、寝ちゃったみたいね」


「おなかいっぱいになって安心したんじゃない?」


そんな無邪気むじゃきなサービスを見たミックスとジャズは、たがいに顔を突き合わせて笑ってしまっていた。


ニコもそんな二人を見てうれしそうに鳴き、サービスとは反対に、ゆっくりとハンバーグを食べるのであった。

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