#77


「ビャッハハ! フギャアアアハッハアアッ! 面白おもしれぇ、面白すぎんぞ機械きかいヤロウゥゥゥッ!」


振り返ったブレイクは、立ち上がったミックスへと一直線いっちょくせん


ジャズはすぐにでもインストガンをとうとした。


あんなフラフラの状態じょうたいではもう立っているのがやっとだ。


立ってくれたのはうれしいが、これ以上いじょうミックスを戦わせるわけにはいかない。


だが、それよりも早く黒いやいばを振り落とされる。


「やめてぇぇぇッ!」


ジャズがさけび声と同時どうじに――。


ミックスの機械化したこぶしとブレイクの振り落としたかたなかさなり合った。


すると、どういうことだろう。


突如とつじょ正体しょうたい不明ふめいひかりがミックスとブレイクをつつんでいく。


そばで見ていたジャズが、いったい何が起きてのかがわからないでいると、そのまばゆい光はゆっくりと消えていった。


消えていく光の中――。


刀をはじかれたブレイクに向かって、ミックスが右ストレートをはなとうとしているのが見える。


こんな拳、たとえ目をつぶっていてもけられる。


ブレイクはそう思ったが、彼の身体はまるで地面じめんに押さえ付けられるかのように動かなくなっていた。


手足、全身がおもい。


自分にだけ重力じゅうりょくをかけられたかのような、そんな感覚かんかくあじわう。


いもうとためをおもうなら……やり直してこい」


そのつぶやきの後に放たれたミックスの拳からは、空間くうかんゆがめるような竜巻たつまきじょうのものがあらわれていた。


ブレイクはまったく身体が動かせず、その拳が顔面がんめんへ向かってくるのを待っているしかなかった。


(なんでだッ!? なんでこいつはれねぇッ!? オレのほうがあきらかに強いッ! ちから、速さ、わざ、すべてにおいてオレがこいつに負けてる要素ようそはねぇッ!)


向かってくる竜巻たつまきじょうのものをまとった拳がスローモーションに見える。


ブレイクのその、実際じっさい一瞬いっしゅんあいだだった瞬間しゅんかんに思う。


さっきミックスとぶつかり合ったときに見えたものはなんだ?


やつの子どものころ映像えいぞうあたまの中をながれていた。


これがまぼろしでないのなら、おそらく奴は――。


いや、それよりもこいつにも自分の過去かこが見えたのだろうか。


そいつは最悪さいあくだと思いながらブレイクは、ミックスの拳を顔面へと受けてき飛ばされていった。


(オレには……まもれねぇのかよ……)


顔に受けたはずのダメージが全身を押しつぶすような感覚かんかくへと変わり、ブレイクはそのいたみをあじわいながら気が付いた。


誰かを守るということは、今こいつらがしていることだと。


ながらくわすれていた自分と妹のおさない頃の姿すがたを思い出しながら、ブレイクはコンクリートの地面じめんへとたおれた。


それと同時に、拳を放ったミックスもその場に倒れてしまう。


「あんた……? ちょっとしっかりなさいよッ!」


ジャズは大あわてでミックスのもとへとけ寄る。


ニコも抱いていた白いかたな――小雪リトル スノーやさしくクリーンのそばに置くと、彼女の後に続いた。


ジャズは動かないミックスへ声をかけ続けた。


もちろんニコは鳴き続けて彼を起こそうとしていた。


そんな彼女たちの想いがつうじたのか。


意識いしきははっきりしていなかったが、ミックスはわずかな反応はんのうを見せる。


どうやら息はまだありそうだ。


「よかった……。ったく、心配しんぱいさせんじゃないわよ。こんなムチャして……ホントにバカなんだから」


ジャズはミックスのあたまを自分のひざの上に乗せると、あらっぽい言葉を吐いていたかとは思えないおだやかな表情ひょうじょうかべていた。


そのチグハグな態度たいどを見たニコは、彼女の本当の気持ちがよくわからないのか、くびを大きくかしげている。


口では悪く言っているのに、頭を自分の膝に乗せて微笑ほほえむなんておかしいなぁ、とでも思っているのだろう。


「これでもう……決着けっちゃくだよね……」


もう戦いは終わった。


そうジャズが安堵あんどしていた瞬間しゅんかん――。


「おい、女。テメェ……たしかジャズとかいったな?」


後ろから男の声が聞こえた。


ジャズが振り返ると――。


そこには気をうしなっているクリーンを抱きかかえ、小雪リトル スノー小鉄リトル スティールかたかついで立っているブレイクの姿があった。


あれだけやられてもまだ立つのか?


やはりハザードクラス――くろがねのコードネームは伊達だてじゃない。


この男は正真しょうめい正銘しょうめい怪物かいぶつだ。


驚愕きょうがくするジャズと震えるニコへブレイクが口を開く。


「そいつが起きたらいっとけ。……テメェのツラァは、二度と見たくねぇってなぁ」


おどろいていたジャズだったが、すぐにブレイクが重傷者じゅうしょうしゃだということに気が付く。


もう立っていること、いや呼吸こきゅうするのさえしんどいはずだ。


「ちょっと待ちなさいよッ!? あんたもクリーンも一緒に病院びょういんに行かなきゃッ!」


「いいから……かならずいっとけよ……」


ブレイクはそう捨て台詞ぜりふくと、そのまま半壊はんかいした街へと姿を消すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る