#76

ジャズは電磁波でんじは放出ほうしゅつ装置そうち――インストガンの銃口じゅうこうをブレイクへと向ける。


「動かないでッ!」


だがジャズが声を張り上げても、ブレイクは彼女のことを気にもめていなかった。


まるでキャンキャンえる野良犬のらいぬでも見るような視線しせん一瞥いちべつすると、すぐにミックスのほうを向く。


「や、やめろ……ジャズ……」


ミックスはたおれたままジャズへと声をかけた。


それは巻き起こる風の中に消え去ってしまいそうなかぼそいものだったが、彼の声を聞けたジャズは内心ないしん安堵あんどしていた。


兄様にいさまッ!」


そこへクリーンも姿すがたあらわす。


彼女はジャズの勇気を見て自身じしんふるい立たせた。


何も特別とくべつちからを持たないただ少女が――。


ミックスのために。


そして自分のために、いのち危険きけんかえりみずに立ち上がっている。


それなのに、巻き込んでしまっている自分がじっとなどしていられない。


この場で兄を――ブレイク·ベルサウンドを止めるのだ。


「ジャズさん……。あなたは私たち以上の特別な力を持っているのかもしれませんね」


「こんなときになにいってんのッ!? 下がってなさいッ! あんたは戦えるような体じゃないッ!」


「いえ、たとえかたなを振るわずとも、兄を――小鉄リトル スティールを止める方法ほうほうはあります」


クリーンがそういうと、ニコにささえられていた小雪リトル スノー日本刀にほんとうへと変化へんかし、彼女のうでにぎられた。


そして小雪リトル スノー両手りょうてに持ち直し、まるでいのるように刀を立てる。


「ジャズさん、そしてミックスさんには勇気をもらいました。もう……誰もきずつけさせないッ!」


――ジャズとクリーンのことなど無視むしし、ミックスへと近づいたブレイクは彼をみつけながら高笑う。


「スゲェッ! スティールが自分の一部いちぶにでもなったみてぇだッ! アハッ! ババアがいってたおふくろの秘技ひぎってのこいつのことかぁッ! 感謝かんしゃしてやるよ機械きかいヤロウッ! テメェのおかげでオレは最強さいきょうになれたんだッ! そのれいにこのままスクラップにして……ッ!?」


ミックスにとどめをそうとしたブレイクだったが、自分の身体から小鉄リトル スティールオーラが消えていくことに気が付いた。


いったい何が起こったのだと、彼が周囲しゅうい見渡みわたすと――。


「テメェか……クリーンッ!」


クリーンが持つ小雪リトル スノーからすさまじいオーラはなたれていた。


彼女は小雪リトル スノーつうじて小鉄リトル スティールへとアクセスし、その力をおさえようとしていたのだ。


小雪リトル スノー小鉄リトル スティールは、元々もともと産土神うぶすながみ加護かごによる妖犬ようけん


クリーンはそのことを思い出し、制御せいぎょうしなった小鉄リトル スティールをなんとかできないかと考えて行動を起こした。


その結果けっか、ブレイクの狂気きょうき支配しはいされた小鉄リトル スティール解放かいほうされ、その力を失っていく。


だが、その反動はんどうなのか。


いのり続けていたクリーンはその場にたおれてしまった。


ジャズが彼女を抱き起すと、目の前には表情ひょうじょうをこれでもかとゆがめたブレイクの姿すがたが。


「クリーンに何をするつもりなの? あんたのいもうとでしょッ!?」


「わからねぇ……。あそこで転がってる機械ヤロウも、そうやってクリーンをかばうテメェも、どうしてここまでする?」


理由りゆうなんて簡単かんたんよ。この子が友だちだからに決まってるでしょ!」


「そういうのはいらねぇんだよ……。英雄ヒーローなんてもんはいるはずがねぇ……。まあいい、うでの一、二本斬り落とせばそんなフザけてことも言わなくなるだろ。手足をぜんぶ失くせば、そこから本音ほんねが出るってもんだ。テメェが本音をいえば楽に殺してやるよ。わたしが強がってました。ごめんなさい、もう二度と他人たにんを助けようなんて思いませんってな」


「やってみなさい! あたしじゃあんたにが立つはずもないけど。それでもこの子だけは守ってみせる!」


抱いていたクリーンをやさしく地面へと寝かし、ジャズはブレイクと向かい合う。


そこへ走ってきたニコは、そんなクリーンの寄りいながら、ブレイクに向かって力強く鳴いていた。


刀へと変化している小雪リトル スノーを抱き、ふるえながらも彼のことをにらみつける。


「くだらねぇ、くだらねぇんだよ……。テメェみてぇな凡人ぼんじんが、そもそものろわれたオレたちとかかわってんじゃねぇッ!」


ブレイクは苛立いらだちながらも口角こうかくをあげていた。


おそらくその内面ないめんでは、渦巻うずまく感情がごちゃごちゃなってしまっているのだろう。


もはや本人すら何を思っているのかもわからそうだった。


「テメェなんかじゃかべにもなりゃしねぇッ! それじゃ守れねぇ……よわやつはなにも守れやしねぇんだぁぁぁッ!」


ブレイクがジャズへとおそいかかろうとしたとき、ふと彼の背後はいごから物音ものおとがした。


それはブリキが玩具おもちゃきしんできるようなそんな音だった。


ジャズはその音の方向ほうこうを見て、うれしそうに両目を見開ている。


ニコもはしゃぎながらその場でぴょんぴょん飛んでいる。


ブレイクはすぐにその音の正体に気が付き、振り向く。


「テメェ……」


そこには血塗ちまみれの姿で立っているミックスがいた。

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