第39話 決意

「じゃあバイト行ってくるの!」


「いってらっしゃーい」

「気をつけてねー」


 ロコさんをバイトに送り出す俺とほむほむ。ロコさんの残りの異世界転生話はディズニーから帰った日の夜に聞く予定だったが無理だった。だって超眠かったんだもん。速攻風呂入って寝たわ。ほむほむも家に着いた瞬間に剣に戻ってたわ。


「……さて、それじゃあ休憩しましょうか」


「あの、今日起きてからご飯食べる以外の事してないですよね?」


 ご飯作ったの俺だし。


「冗談よ。それじゃあ、一つ小話でも……」


「なんで急に落語に目覚めてるんですか」


「仕方ないわね。そんなに知りたいなら教えてあげる。この私の誕生秘話を」


「いや。うーん。……手短にお願いしますね?」


「よっしゃよっしゃ。任せんしゃい」


 何キャラなのか分からないけど、そりゃ多少は気になるじゃん?


「私、実は天使なのよ」


「そうなの!?」


 何その衝撃の事実。


「神の七大罪装備って神様の思いつきで作られたんだけどね?例えば私の場合、MP消費なしでサラマンダーが使える訳だけど、それって世界の理から外れた力なのよ。すなわち神の力な訳ね。それが行使できるのは文字通り神様か、あるいは神の力の使用が一部許可されている天使だけなのよ」


「……あの、ロコさんに見付けられるまでは何してたんですか?」


「鋭い指摘ね。それまでは普通に天使の仕事してたわよ?見付けられた瞬間に剣になったの」


「なるほど」


 いや、普通の天使の仕事内容も剣になる理由も全く分からないけど。


「本当はさ、ロコの冒険が終わった時点でお役御免だったんだけどね。神様にお願いしてそのままにしてもらった」


 その理由はこの前話した通りなのだろう。自身の記憶も存在もなくなってしまったロコさんを助けるため。


「私の誕生秘話はそれで終わり。要するに私が天使だって事を蓮に言っておきたかったの。そうじゃないと、この後の話が信じられないだろうし」


「…………」


 この後の話。ロコさんの異世界転生の続きであり、彼女がこうなってしまった理由。そして恐らく、この状況を打開する方法について。


「さて、ロコの話の続きの前に、まずはどうやったらあの子を元の状態に戻すかについて考えましょうか。はい、そこの蓮君。答えてください。ヒントはそうねぇ。ロコに起きている事も、世界の理から外れているわ」


「……神の力で解決する?」


「正解だけど、それだけでは不十分ね。その答えだけだと、どうやって神の力を使うかが抜けている」


「えっと、ほむほむの力でなんとかなりません?」


「天使に与えられた程度の力では、とてもじゃないけどアカシックレコードに手は出せないわね」


「……じゃあ、天使のほむほむ経由で神様にお願いするとか?」


「……天使のほむほむ。良い響きね」


「…………」


 言うほど良い響きか?


「その発想も間違いではないわ。でもまだ足りない。代償が、足りない」


「…………」


 代償。対価。供物。言い方はなんであれ、それはそうなのだろう。タダで手に入る物なんてない。もしそれが要らないなら、そもそもほむほむが神様に頼めばそれで終わりなのだ。


 とにかく、祈りを捧げるだけで願いが叶うなんてことはない。一方で、俺の発想も間違いではないと言った。代償というなら、例えば俺の存在と引き換えに願いを聞いてもらう?いや、それはないだろう。そんなの神に何のメリットもない。これまでの話からあり得る可能性は……。


「……ロコさんは、魔王を倒して、世界を救った報酬に何を貰ったんですか?」


 昨日聞いた話では、魔王を倒した暁には何でも願いが叶えられるという話だったはず。そして、元の世界に帰る事は願いとは別だ。


「…………。正解よ。ロコが願った事についてはこの後で話すけど、つまりはそういうこと。ロコを救う方法。蓮には、異世界転生をしてもらう。魔王を倒して、その願いでロコを元に戻す」


「……それは、仮に失敗した場合にはどうなりますか?」


「異世界で死ねば、そのまま死ぬわ。死者蘇生の魔法はない。もちろん行かないという選択もある。あるいは魔王討伐が無理だと判断した時点で戦いを止めるという手もある。ただその場合、この世界には帰れないけど」


「…………」


「答えは急がないわ。ロコの話の続きを聞いて、その上で良く考えて。別に、ロコにとって今の生活が悪いという訳でもないのだから」


 今の生活が悪くない?本当に?そんな事あるか。異世界転生がなければそもそも死んでいた事を無視すれば、もっと、色々な選択肢があった筈だ。友達と一緒に学生時代を楽しんで、やりたい仕事に就いて、好きな人と結婚して、可愛い子供が生まれて、孫に喜ぶ親と幸せを分かち合う。そんな人生が。


「……異世界に行った時点で、俺の存在はこの星からなかった事にされるんですよね?ロコさんの記憶からも消える」


「ええ。無事に帰ってこれれば全て元通りだけどね」


「じゃあ、仮に失敗しても、俺がいなくなったことがロコさんに伝わることはない」


「……ええ。その通りよ」


 ……そうか。それなら迷うことはない。


「ロコさんの話の後で、俺に、魔王討伐の攻略情報を教えて下さい」

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