第92話 わたしが出ます
想定していたのとかなり、違いますけど、無事(?)にオルレーヌ王国への入国を果たせました。
ただ、少々まずいのではないかしら?
「お嬢さま、これ目立ちますよねぇ」
「そうですわね。私でも気付きますわ」
向かいの座席でニールとオーカスに膝を貸しているアンが不安な表情を隠せない理由は良く分かります。
崩壊した関所に留まるのは危険でしょう。
明確な殺意と破壊の意図を持つ者どもに包囲されていたのですから、さらなる追手が放たれる可能性が高いのです。
そこでまず、
アルフィンへの旅に使用したアインシュヴァルト公爵家の馬車ですから、外装・内装ともに拘った一級品なのですけど……引いてくれる馬がおりません。
私の召喚出来る馬は愛馬であるアーテル一頭だけ。
複数頭の召喚が可能で馬車を引けるとなれば、
頑丈かつ力が強く、戦闘力も高い。
頼りになる召喚獣ではありますから、馬車を引かせても問題はないのですけど。
大型の狼が引く馬車という絵は非常に目立ちますわね。
ですが、それよりも馬車から、少し遅れた位置でゆったりと歩く巨人――ヤマトタケルの方が目立ちますわ。
十メートル近い大きな体で軽い地響きと土煙を上げるさまは目立つ以前の問題な気がしますけど。
「今のところ、まともな集落ないしさ。何とか、なるんじゃない?」
隣に座っているレオに肩を掴まれ、軽く抱き締められています。
激しく高鳴る心音を聞かれるのに十分なくらい密着してますわね。
膝の上に乗っけられていないのでこれくらいはまだ、我慢出来ますもの。
彼の膝に乗っけられて、後ろから抱き締められたら、心臓が持ちませんのよ?
「レオ……魔法は万能ではありませんのよ?」
「そっか。それは残念」
「これを見てくださいな。はい。持ってくださいませ」
「あっ、うん」
猫背の甲冑お化けこと
恐らくは外装の一部と思われる三十センチほどの金属片を取り出し、レオに持ってもらいました。
「よーく、見てくださいね」
まずは人差し指に魔力を
これだけでは意味がないので炎を燃え
「消えた!?」
「ええ。どうやら、何らかの処理が施されていますわ」
魔法――魔力の流れをある程度、無効化する仕掛けが施されているのでしょう。
ただ、この仕掛けではある程度の力までしか、抑えられないようです。
出力さえ上げれば、容易に貫くことが可能ですわ。
それは敢えて口にしません。
この破片を楽に貫く魔力を有する者は限られてますもの。
魔法を軽視するオルレーヌにはまず、いませんわ。
これを
魔法を無効化するシールドを張っていると言えば、簡単かしら?
説明しにくいのですけれど、実際に具現化し、量産しているという意味では画期的ですわね。
この技術を応用すれば、私の
「魔法の攻撃を防ぐってことか。じゃあ、無理矢理叩き潰すのがベストかな?」
「ひゃん……そ、そうですわ」
レオが手を肩から、つうと背をなぞるように腰へと動かしたので思わず、変な声が出ました。
油断するとすぐ、これですもの。
それにしてもこの国、思った以上に荒れてますのね。
関での事件から、二日ほど経過してますから、それなりに北へ進んだのに未だ、人の姿を確認出来る集落に行き当たらないのです。
いいえ、それどころか、今のところ、生きている人型の生物すら、見ていません。
さすがにおかしいですわね。
集落の跡しか、見当たらないなんて……。
「ねぇ、レオ。あれは何かしら?」
「ん? 何々?」
「あ、あれ……お嬢さま。あれって……戦車では!?」
ええ、あれって……あれですのね?
地平線の彼方から砂煙を巻き上げながら、こちらに向かってくるのは大きな鉄の箱を二個重ね、上の箱から
アースガルドにあちらの世界で言うところの戦車は存在しません。
ではあれが計画にあった
追随する
「例の計画の
「はい、お嬢さま」
「二人をお願いね。私はレオと出るわ」
しかし、私の考え通りにいかない人がいるのを忘れていました。
ええ、レオですわ。
座席を立とうとするよりも早く、横抱きに抱えるんですもの。
馬車から降りるのをエスコートしてくれるレオの姿を想像してましたから、 『ひゃっ』って変な声が出ましたけど、私が悪いのではありませんから!
「あ、あのレオ。そういうことをする時は先におっしゃ……んっ、んんっ」
喋っている途中でキスしてくるなんて、不意打ちですわ。
いけないことだと頭のどこかで考えながらも……キスは好きでもっと、たくさんして欲し……ではなくって!
そんなことを考えている場合ではありませんでした。
耳をつんざくような音とともに目の前の地面に大穴が開いたのです。
「今の結構、危なかったね」
ええ、目の前ですわね。
レオはそう言っている割に余裕のある笑顔を向けてくれます。
そんなにこやかな笑顔を見せている状況ではないと思いますのよ?
私が生きている限り、絶対的な防御領域・
ですから、驚くだけで何の心配もいらないのですけど、そういう問題でしたかしら?
「わたしが出ます。ヤマト……行くよ」
その時、頭上から、自信なさげでありつつもどこか、確信に満ちたか細い声が呼びかけてきました。
ターニャです。
地響きを上げながら、岩の巨人ヤマトタケルがゆっくりと歩み始めました。
まるで岩を思わせる武骨な鎧に覆われ、鈍重そうに見える巨体。
歩き始めこそ、ゆったりした動きでしたが、次第に滑らかな動きを見せ始めます。
ターニャの順応速度が早いのか、それともヤマトタケルという
どちらもという場合もありますわね……。
「これって、何かすることあるかな?」
「お手並み拝見ということでよろしいかと」
レオが放してくれそうにないので彼の胸板に顔を預けると規則正しく、刻まれる心音が心地よく聞こえてきました。
つい、うっとりして、うっかりと人に見せられない顔になっている場合ではありませんのに!
確か、魔動兵計画書では……
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます