第473話 召喚 Call of Duty(後編)
猿人間はこの世界にはない未知の感染症を有しているかもしれない――いや、いるだろう。
前々章で宇宙人と出会ったら真っ先に検疫に気をつけねばならないと書いたが、仮にその宇宙人がいわゆるウ
しかし、猿人間は似すぎていた。問題はそこである。
『それが俺達の呼ばれた理由ですかね!?』
出発までの段取りが整い、最後となった給油作業を224補給部隊に任せると、その間にレオは全員を甲板に
『隊長の手腕どうこうより、俺達の精鋭ぶりがどうこうより月面服の扱いに慣れているというのでこの厚遇ぅ!?』
エースは最後まで言わず、代わりに手を広げて「周囲の装備を見ろよ」とジェスチャーをした。そう、彼らが立っているのは甲板は甲板ではあるが船の甲板ではなかったのだ。
その
月面守備隊隷下オーワ川遡上専用急造母艦…いや母艇である。
『まぁそう皮肉は言わずに、大尉』
南大西洋を背景にしてレオは何故か笑顔である。
本を読むのが好きで活動的というのとは真逆な性格の男だが、おそらく単純に冒険好きなのだろう。いや考えてみればそれもそのはずだ。そうでなければ
大概の功名心とは恐怖心に簡単にかき消されるものであり、マゼランに(地球が球体であるというのは確信していたとしても)地球の大きさが分からないまま世界一周を挑戦させたのは冒険心――いや狂気だったのだろうが、それと同種の狂気がレオにも宿っていたのだろう。そうでなければアルゼンチンの南端をくぐり、一切の陸地の見えない海を三か月も進み続けることがどうしてできようか。あるいは即死するともしれない次元跳躍孔をくぐり、別の宇宙に赴こうとどうして思うだろうか。それはひとえに未知の世界への憧憬というやつだ。実際、レオが月面司令になるまでに普通の感性を持つ20人以上の少将~大佐が向こうの世界へ行くことを辞退したという。
『じゃ、別の質問だ、司令』
そう言って挙手したのは、ラプトリアンのオルネガ大尉である。彼はもともと月面守備隊(レオの配下)ではないが、今回の作戦で志願してきた強者である。単に好戦的なのか、利他の精神があるのか、それはレオも掴み切れていない。
『どうぞ』
『
『距離のことですね。それはまったく見当がつきません。ただ言えるのは彼らは6700年前に
『そんなことまでわかってるんですかい?』
『月面で一匹、捕虜にしたんだよ! 資料を読め、大尉』
エースが「レオの話を遮るな」というのと「資料を読め」というので両方を咎めるが、彼の人柄としてあまり嫌な感じに響かない。コナンの「バーロー」のような響き方をする。
『まぁまぁ…。それで話を続けますと、繰り返すように6700万年分の隔たりがあるので未知のウィルスを彼らが持っているのは間違いありません。…ですが逆に言えばたった6700万年分しか違わない』
『左様だ』
と言ったのはアストラ博士である。彼女は「
『生物…もとい細胞システムの歴史から見れば6700万年は一弾指。何も変わっていないとみるべきだ。急に赤外線を使って自分のDNAを送り込んでくる…なんていう感染方法をウィルスが編み出したりはしない』
『えぇあ、博士ぇ』
オルネガ大尉が身振りで困惑して見せた。
『つまりです。ウィルスの空気中の寿命、飛沫の距離、熱への耐性。そういうものは変わらないはずということです』
『怖がりすぎるな、ということだな』
と、エース。
『皆さん! ひとつ、目視で敵を捉えたらバイザーを閉じること。ふたつ、その際に月面服を着ていなければ退却。 そういことにしましょう』
『やれやれ、原始的だな』
『別の宇宙の、謎の
『ははは…。 原始的といえば、まさかアレが出てくるとはね』
エースは背後のアレを振り返りつつ苦笑し、それにアストラも続いた。
『あぁ、科学万能の時代とは思えんな。サウロイドの存亡をかけた新鋭艦に……ケロノサウロロフスが乗っているとは。中世と変わらん』
そう。エースとアストラが振り向く甲板の後方には、間抜けにも
『なぁに質実剛健。見掛け倒しの重機など役に立ちません』
しかしそのサウロロフスを所望した張本人であるレオだけは笑顔だ。
『
つまりサウロイドは恐竜の背に乗って、
あぁなんということか。良い意味で――
いよいよ物語は
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