第103話 天界
「はぁぁぁぁぁ。やっぱ凄いな・・・・・。」
神殿から出た僕は、思わず感嘆の声をあげる。
ロイージェさんから依頼を受けた後、数日、旅の準備をしてから、いつもの様に『天の塔』から最上階へと転送し、天界へと続く門へと入った。
真っ青な海。美しい島々。白い建物。
・・・・久しぶりに丘の上から見る天界は、美しいの一言だった。
こんなに美しい光景は、ここでしか味わえないね。
「・・・・・何て美しい所なの?」
初めて来たアイリがその光景に心を奪われている。
「ハハハッ!アイリは初めてだもんね!
ここが天界さ!・・・・そして僕の故郷。
『エデン国』へようこそ!」
カイトが嬉しそうに、アイリに話している。
天界人が住む国。『エデン』。
そしてカイトはこの国の王子でいて、僕達の仲間だ。
「さて。今日はこの町で宿をとって、それから散策しながら情報収集をしよう。・・・・・で、明日は王城へ行ってみようか。カイトもたまには里帰りしないとね。それが終わったら、次はラフィンだ。ラフィンも里帰りしてほしいから、天竜人の国『テンペスト』に行こう。」
「分かった!」
「うん!」
カイトとラフィンが喜んでいる。
ここ数年ずっと現界にいたんだ。
僕達の仲間といっても、たまには故郷に帰りたいと思うのが普通だ。
こんな機会がないと気づかない僕は、心の中で反省する。
今度は定期的に来ようと思った。
・・・・・二人の為に。
僕達は丘の上にある神殿から下ると、美しい町に向かって歩いていった。
☆☆☆
「かんぱ~い!!!」
「ささ!英雄様!王子!お仲間様!どんどん飲んでくださいね!」
僕達の周りには、大勢の天界人の人達がエール(ビール)片手に騒いでいる。黙っていてもどんどん料理が僕達のテーブルに運ばれてくる。
完全にお祭り騒ぎだった。
・・・・・どうしてこうなった?
・・・・・しかも何?英雄って???
僕達が町へと入ると、すぐに大騒ぎになった。
僕を見かける人は、カイト(王子)そっちのけで、歓喜をあげて握手を求めてきた。
まるで超有名人だ。
隣を見るとカイトが少なからずショックを受けている。
いつも女性を見るとナンパしている彼が、シュンとしている所も面白い。
まぁ~飲み始めて時間が経ったらすぐに復活して、知らない女性に話しまくっていたけどね!
とりあえず、情報収集するのに最適な飲み屋で聞き込みをしようとしたのだが、店にいる人達が定員も含めて皆、話しかけてくるので、この町である程度の情報は掴めた。
何かここ最近、王城が騒がしいとの事だ。
兵士達が大勢出かけているらしい。
ただ、原因を聞くと皆、分からなかった。
・・・・・何かあるのは間違いなさそうだな。カイトのお父さん、カイシス王に聞けば何か分かるかもな。ただ・・・・・英雄って。
前に、この国のカイトの妹である王女のリョーカを助けた事がこの国に知れ渡り、英雄として語られているのだそうだ。
それは完全に想定外だった。
あまり目立ちたくないのに何でいつもこうなるのか。僕じゃなくてパーティが目立つなら一向に構わないんだけどなぁ。
そんなこんなで、店の人達にお酒や料理を振舞われ、断れない僕は完全に次の日は二日酔いになった。
☆☆☆
「うぅぅぅぅ。・・・・・頭痛い。」
僕は、宿の食堂で朝食をとりながら頭を抱えている。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・僕も頭痛い。」
故郷に帰って上機嫌だったのと、更に女性達にどんどん勧められたので、飲みまくり、流石のカイトも二日酔いらしい。
白雪が呆れた顔で言う。
「まったく。前にも言ったけど、酒は飲んでも飲まれるな。・・・・・でしょ?」
・・・・・ぐうの音もでません。
まだ気持ち悪いが、何とか朝食をとると、僕達は早めに宿を後にした。
王城に行く前に、寄る所があったからだ。
暫く町を歩くと、白く高い建物の前で止まった。
「確か、ここかな?・・・・・皆。仮面付けて入ろうか。」
ここは、天界にあるアークスの拠点だ。
前にシュバインさんに場所を聞いていて、来た時には顔を出して欲しいと言っていたのを思い出した。
シュバインさんに会って、少しでも何か情報が掴めればと思って寄る事にした。
「!!!貴方は・・・・・!しょ少々お待ちください!クランマスターを呼んできます!おい!この方達を応接室へ!」
建物の中に入ると、入口付近にいたアークスの冒険者が僕達を見ると、すぐに駆け寄り対応してくれた。
僕達は応接室へと通され、暫く待っているとシュバインが現れた。
「やぁ!レイさん。久しぶりですね!まさか天界で会えるとは思いませんでしたよ!・・・・・皆さんもお元気そうでなによりです。」
シュバインは僕の方へと来ると、嬉しそうに肩を優しく触る。
「ご無沙汰してます。シュバインさん。もしかしたらと思って来ましたが会えて良かったです。ちょっとお聞きしたいことがあったので。」
「そうですか!・・・・・ここでは何ですから、私の部屋で話ましょう。ただ、皆さん全員は入れないので、少しお待ちください。・・・・・貴方達。お客様におもてなしをお願いします。」
シュバインは、アークスのメンバー達に指示をだすと、すぐに仲間達にお茶やお菓子を出して、もてなしてくれた。
その間に、僕は最上階にあるクランマスター室へと案内されると、シュバインと二人きりでお互いに知らない情報交換をした。
「・・・・・そうですか。そんなクエストや冒険を。・・・・・レイさんは相変わらずですね。」
シュバインは呆れた顔をしながら言う。
「いやいや。シュバインさん達も色々と活動してますね。この天界で建物を建てるなんて本当に凄いですね!」
聞くと、5大クランの一つ、【アークス】は大規模クランを利用して、ここ数年様々な所へ冒険していたらしい。人数が多いクランだからこそ出来る形だ。
知らない国や土地の情報を聞けるのは、本当にありがたい。プレイヤーとはあまり接点がない僕としては、シュバインさんと友達になって本当に良かった。
「ところで、今日はどうして尋ねに来たんですか?しかも天界で。」
「実は・・・・・シュバインさんに聞きたいことがあってここに来ました。」
「聞きたい事と言うと?」
僕は、依頼を受けて、天界で何か不穏な事が起きてないか調査する為に来た事を話した。
シュバインは黙って話を聞くと、何か考え込んだ後、口を開いた。
「なるほど。・・・・・そう言う事だったんですね。確かに、ここ最近、この国は王城を中心に慌ただしくなってます。
私達が調べた所だと天界のどこかで、昔から封じられていた封印が解かれ、問題になっていると調査班から報告があがってます。」
封印が解かれた?
「・・・・・ただ、それが何かは分かりません。すみません。あまり役に立てずに。」
シュバインがすまなそうに言う。
「いやいや!十分な情報です!ありがとうございます。助かりました。シュバインさん!」
僕はすぐにお礼を言う。
その話が確かなら、非常に有益な情報だ。
シュバインはお茶を一口飲むと、少し遠い目をしながら僕に話しかける。
「・・・・・レイさんは、この世界に来てどうですか?」
???
「どうと言うと?」
「あぁ。失礼しました。
・・・・・私達プレイヤーは、地球からこの真実の世界『THE WORLD OF TRUTH』へと転移しました。
もうここにきてしばらく経ちましたし、皆、この世界に慣れたと思います。・・・・・レイさんはこの新しい世界で何をしたいのかと思いましてね。」
それを聞いた僕は迷わず答える。
「そうですね。・・・・・最初は確かに戸惑いましたが、今はこの世界を楽しんでますよ。
・・・・・僕は、地球にいた頃に出来ない事をこの世界ではやろうと思って行動してます。
前に比べると冒険者は死と隣り合わせだし、あまり安全ではありませんが、仲間に恵まれて楽しんで冒険をしています。
・・・・・だから、今はとても充実してますね。」
「そうですか。・・・・・こちらに来て、様々なプレイヤーに会って、話を聞きましたが、環境や不安をもつ方も多かったのですが、貴方の様に楽しんでいる方達もとても多い。
・・・・・だからこそ、真意を聞きたいですね。」
最後の方は小声で聞き取れなかった。
「折角、この世界に来れたんですから、楽しまないのは損でしょう!シュバインさんもそうなんじゃないですか?」
「私ですか?」
シュバインは少し考えると笑顔で答える。
「そうですね。確かに、この世界で生きるのなら楽しまなければ損ですね。その気持ちも少しはありますが・・・・・私には望みがあるんですよ。」
「望みですか?」
「ええ。それは・・・・・
この世界の真実を知る事です。」
何故、彼女は現れたのか。
何故、地球が滅ばないといけなかったのか。
何故、彼女はこの世界へ転移させたのか。
そして・・・・・・・彼女は何者なのか。
彼女と出会い、ここへ来た全てを知っているシュバインは、その謎をどうしても知りたかった。・・・・・博士の性なのかもしれない。
彼女と会って真実を聞けるなら、どんな手段でもとろう。・・・・・・・・・どんな手段でもね。
レイがポカンとしているのを見て、笑いながら答える。
「ハハハッ!まぁ~気にしないでください。ちょっと人を探しているだけです。・・・・・また、お互い定期的に情報交換をしましょう。」
「そうですね!今後ともよろしくお願いします。」
僕はシュバインと握手を交わすと、【アークス】の館を後にした。
☆☆☆
シュバインと別れた後、待ち合わせの場所まで行くと、真っ白い羽の模様の鎧を付けている者とその後ろには数人の白い騎士達が大きな鳥を連れて僕達を待っていた。
先頭にいたのは3大天将の一人、テイルだった。
事前に、カイトが連絡を取ってくれたのだ。
テイルは僕達を見ると、僕に方に近寄り、肩を叩きながら嬉しそうに言う。
「レイ!よく来たな!そしてカイト様。よくお戻りになられました。王や王妃がお待ちです。さぁ、行きましょう。」
大きな鳥に乗り、大空へと飛んでいく。
・・・・・城がある天空の島に向かって。
「レイさん!!!」
僕達が来るのを待っていたのか、城へと着くと、王女のリョーカが先頭にいるカイトをスルーして、僕に飛び込んできた。
僕はリョーカを受け止める。
「リョーカちゃん。久しぶりだね!」
「もう!落ち着いたら来るって言ってたのに全然来ないんだもん!心配してたんですよ!
・・・・・あっ!白雪さん!ラフィンさん!」
リョーカは、白雪とラフィンの元へと駆けると嬉しそうに談笑している。
元気そうで良かった。そういえば、落ち着いたら来るって言って全然来なかったな。まぁ~、あれから色々とありすぎて忙しかったといえば忙しかったが、来れないと言ったら噓になるな。
「あれ?・・・・・カイトさん?」
先頭で、受け止める為、両手を広げているカイトが固まっている。背中からは哀愁が感じられた。
・・・・・ご愁傷さまです。
王の間へと通されると、そこにはカイシス王と王妃。そして3大天将や側近達がいた。リョーカは僕達から離れ、王妃の隣へと移動する。
僕達は王の前まで来ると、片膝をついて頭を垂れる。
「レイ殿。よく来てくれた。そしてカイト。久しく見ぬ間に・・・・・立派になったな。レイ殿に預けて正解だったようだ。」
カイシス王は、一人の父親の目で、同じように片膝をついているカイトを見て言う。
「父上。母上。お久しぶりです。レイと一緒に旅をしながら充実した日々を送ってます。だから僕はまだ戻るつもりはありません。僕はまだまだ強くなれる。
もっとレイと冒険して、そしていつか父上を越えるんだ!」
カイトは真っすぐに王を見て答える。
「フフフ。我が子がここまで成長するとはな。・・・・・カイトよ。私はまだまだ元気だ。好きにするがいい。・・・・・レイ殿。すまぬがこれからも不肖の息子だがよろしく頼む。」
「はい。」
僕は笑顔で頷いた。
「ところで、今回は顔を見せに来てくれたのか?それとも何か目的があって来たのかな?」
「両方です。カイトもたまには故郷が恋しいでしょうからね。あとは、ある人から依頼を受けまして・・・・・。」
僕はロイージェから受けた依頼内容を、カイシス王に話す。
王は驚いた顔をしたが、少し考えた後、真剣な顔で言う。
「フム・・・・・。不吉な事か。なぜ現界にいる者が分かるのかは知らぬが、言い得ているな。預言者か何かか?・・・・・だが、レイ殿をよこしてくれた事には感謝せねばな。・・・・・レイ殿。これから行く用事があるのだが、一緒に付いてきてはくれないか?そこでこの天界で起きた事を説明しよう。」
「分かりました。」
王は立ち上がると、すぐに準備をし、3大天将と側近達。そして僕達を大きな鳥に乗せて、大空へと飛び立った。
☆☆☆
着いたのは鳳凰の国『サクシアリ』だった。
【神山】といわれる山々に囲まれたこの国はとても神秘的な感じがした。
カイシス王は城へと着くと、すぐに女王の間へと通される。
3大天将と側近達、そして僕達は別の部屋へと案内をされるが、カイシス王が衛兵に言い、僕達だけは女王の間に一緒に付いていく事となった。
大きな扉から入ると、謁見室だろうか、とても広い。そしてそこには鳳凰の女王がいた。そしてもう一人、見覚えのある人物が立っている。
「お父さん!」
「オォォォォォォ!!!!
ラフィンちゃん!!!!!」
その人物はラフィンを見つけると、一目散に駆けて抱きしめる。
途中僕の肩にぶつかりながら。
・・・・・絶対にわざとぶつけたでしょう。竜王。
天竜人の国『テンペスト』の王。
天竜王がそこにはいた。
「良かったぁぁぁ。全然顔を見せに来ないからとても心配していたんだよ。ラフィンちゃん、大丈夫だったかい?あの男に変な事されてないかい?」
ラフィンを抱きしめながら、僕の方を睨みつける。
ハハハハハ。相変わらずですね。全然ブレてない。
「ところで、どうしたんだい?こんな所へ来るなんて。」
「それは私が呼んだんだ。レイ殿しかいないと思ってね。」
カイシス王が言うと、2国の王は納得をしたのか、黙っている。
王達は、女王の間にある大きなテーブルへと行くと、椅子に座り、天界で起きた事を僕達に話始めた。
「・・・・・数日前に、ある封印が解かれたのだ。」
・・・・・天界。
この世界には、天界人の国『エデン』。
天竜人の国『テンペスト』。
鳳凰の国『サクシアリ』。
この3つの国で成り立っている。・・・・・今は。
しかし、はるか昔には、もう一つの種族が存在していた。その種族の名は【古代人】。この天界に初めて住み始めた種族であり、もっとも古いとされていた。
4つの国は、共存を模索し、暫くは平和が続いたが、3国は、ある一人の古代人に脅威を持ち始める。
その者は、古代人の中でも特殊だった。
古代人は天界人とあまり変わらない力だったが、その者だけ、飛びぬけて強大で、強く、3国の王達でも足元にもおよばない程に、力の差があった。
ある時、古代人の重鎮たちがその者をたてて、この天界を支配する事を目論んだのが知れると、3国はすぐに動いた。
・・・・・3国で滅ぼしたのだ。古代人の国を。そして、その巨大な力の者は、その時の3国の王達が、倒すことは出来なかったが、力を合わせて封印する事が出来た。
その封印されし場所の入口が何者かに解かれたのだ。
「なるほど。そういう事だったんですね。」
僕は説明を受けながら答える。
「今は、我々3国の選抜された実力者達が懸命に入口に別の結界を張っているが、時間の問題だ。入口の結界が解かれたとなると、中にあるもう一つの結界も弱まり、解かれるかもしれん。そして、あの者が復活してしまうだろう。そうなってしまったら、我々に恨みを持つその者を倒せる者などいない。
最悪、この天界は滅びるだろう。」
「・・・・・対応策はないんですか?」
すると、鳳凰の女王が一本の剣をだすと言う。
剣というより、様々な刺繍が彫られた作品の様に見えた。
「これは、我々先祖の王達が、いざという時の為に作ったとされている封印している剣と同等の物。・・・・・これを同じように、封印されし者の体のどこでもいいから突き刺せば、再度、封印されるだろう。」
カイシス王が続ける。
「我々はこの天界で一番強いが、国を預かる身。
だから、今日3人で話し合って、中へ入り、封印できそうな者を選抜する予定だったのだ。
それが失敗する様なら、最後の手段で我々が出ないといけないがな。
・・・・・そこでだ。レイ殿。お主はこの世界でも、我々の次に強い。
・・・・・冒険者、ホワイトフォックスとしてそなたに依頼をしたい。報酬はそれに見合うだけの物をだそう。
・・・・・どうか、この世界を救ってほしい。」
王達3人が頭を下げる。
「王様。顔をあげてください。状況は分かりました。・・・・・という事は、その封印されている者に再度、この剣を刺せばいいんですね?」
「ああ。その者はまだ復活はしていない。力も封じられて弱っているだろう。だが、中を見たわけではないから推測でしか話せないがな。・・・・・それと、もう1つ条件があるのだ。」
「条件と言うと?」
「封印された中へ入って30分までが限界なのだ。」
入ってだいたい30分が過ぎると、入った者は、今まで出会った人からその存在を忘れられるとの事だった。
「どうして、そんな事が起きるのかは分からん。ただ伝承によると、この世界の人々を不安にさせない為に施したと記されてある。」
・・・・・という事は、タイムリミットは30分。その封印されている場所に入って、30分以内に、封印されている者の体に剣を刺して戻る事が出来れば無事達成という事か。
何回も挑戦は出来ない。後で聞いた事だが、一度入った者は二度入る事はできないのだそうだ。
・・・・・天界は、カイトとラフィンの故郷だ。
滅ぼされるわけにはいかない。
「分かりました。その依頼。お受けします。」
「受けてくれるか!・・・ありがとう!!!!!」
僕達は女王の間を出ると、ずっと黙っていたラフィンのお父さん。竜王が駆け寄り、ラフィンに言う。
「ラフィンちゃん!ごめんねぇ。こんな事に巻き込んでしまって。危険だと思ったらすぐに戻ってくるんだよ。・・・・・おい!レイ!死んでも守るんだぞ!!!!」
ハハハ。ほんとブレないなぁ。
僕は思い出すと、白雪に言う。
「白雪。ちょっとカイシス王と鳳凰の女王に確認したい事があるから、ちょっとここで待っててくれるかい?」
「私も行こうか?」
「いや。大した事じゃないから待ってて。」
「うん。分かった。」
僕は戻って女王の間へと再度入っていった。
・・・・白雪は待ってて何故か胸騒ぎがしていた。
何でだろう。
待っているだけなのに、不安な気持ちになる。
するとすぐにレイは戻り、白雪の頭を優しく触り、言う。
「さぁ。すぐに出発しよう!」
白雪の胸騒ぎや不安な気持ちはすぐに消えた。
☆☆☆
その封印されている場所は、鳳凰の国『サクシアリ』の更に先にあった。
何もない平原のその真ん中に、大きな白い空間が広がっている。その両側には祠の様な物が建っていた。
そして祠には大勢の術者達が呪文を唱えている。解かれた封印を再構築しているのだろう。
その白い空間の前に僕達は立っている。
「しつこい様だが、30分だ。いいか。ダメだと判断したら、すぐにその指輪を使ってもどるんだ!必ずだぞ!」
竜王がラフィンを心配しながら僕に言う。
王達に、この空間から帰還する指輪をもらった。この白い空間の入口から通れば出られるのだが、時間がない時にすぐにこの指輪を使えばこの世界へと戻れるのだそうだ。
僕はその指輪を見ながら言う。
「当然です。・・・・・僕は仲間が一番大事です。危険と判断したら、失敗してもすぐに帰還します。・・・・・それでは行ってきますね。」
僕はカイシス王と握手をすると、目で他の二人にも合図を送る。
そして僕達は白い空間へと入っていった。
カイシス王はレイ達を見送ると、二人に言う。
「問題なければいいのだか・・・・・レイ殿が言っていた、もしもの時に備えて、私達も準備をしようか。」
そう言うと、3人の王は、その場を後にした。
☆☆☆
「ここは・・・・・街?」
道の真ん中に立っている僕は呟きながら見渡す。
大きな白い空間の中へと入ると、周りは所々に建物が崩れ、瓦礫が散乱している。
まるでゴーストタウンの様な風景だった。
そして奥の方には神殿の様な建物がある。
「・・・・・あそこかな?」
僕は白雪に聞く。
「多分そうね。王が言っていた封印されている場所と一致してるもの。」
「そうか。なら早速行こう。」
時間がない。
早く行って再度、封印しにいかないと。
僕達が歩き出そうとしたその時だった。
数百メートル先の崩れた建物の陰から、3mはあろうか、赤い口だけある真っ白い大きな人間の様な形の者が、大剣をもって現れた。
1人、また1人と。
・・・・・どんどんと集まり、その白い者はゆうに100を超えていた。
白雪はその光景を見て、険しい顔をしながら思う。
・・・・・あれだけの数。
しかも、あの白い者のレベルは290前後。
私達だけで、あれを全部倒して神殿にいる者を封印するなんて・・・・・時間が足りなすぎる。
「・・・・・ダメか。」
レイが独り言の様に呟いた。
すると、レイは振り向き、私達を見て一人一人に言葉をかける。
「・・・・・アイリ、【レイス】。
・・・・・カイト、【レイス】。
・・・・・キリア、【レイス】。
・・・・・ラフィン、【レイス】。
そして・・・・・」
話しかけているレイに何か気づいたのか、白雪が叫ぶ。
「レイ!!!
ダメ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「・・・・・白雪、【レイス】。」
「えっ?何これ・・・・・?」
アイリは自分の両手を見ると、体が薄くなっていくのが分かった。
僕は、アイリに近づいて言う。
「アイリ。キリアにしっかり学んで、最高のヒーラーになるんだよ。」
「??? レイ?何を言って・・・・・・・・」
アイリは言いかけるとそのまま消えていった。
僕はカイトに近づいて言う。
「カイト。君はこのパーティで唯一の男だ。しっかり女性を守ってくれよ。」
「だから、何を言っているんだ!レイ!おい!・・・・・・・」
カイトは言いかけてそのまま消えていった。
僕はキリアに近づいて頭を撫でながら言う。
「キリア。アイリはまだ弱い。立派なヒーラーに育ててくれ。僕はキリアを信じているよ。」
キリアは何かに気づいたのか、泣きながら言う。
「ダメ。・・・・・・ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!
絶対ダメ!!!!!!!
・・・レイ!!!!!!!!!」
キリアは叫ぶとそのまま消えていった。
僕はラフィンに近づいて頭を撫でながら言う。
「ラフィン。君はこのパーティの元気の源だ。白雪を支えてやってくれ。頼んだよ。」
ラフィンは泣きながら言う。
「・・・・・僕は!!!!まだレイに言ってない事が沢山あるんだ!!!!
お願い!僕を一人にしないで・・・・・・・」
ラフィンは僕に手を伸ばそうとしながら消えていった。
「・・・・・白雪。」
「・・・・何で!・・・・・何で斬れないの!!!!!!!」
白雪は気づいた瞬間。
指輪を付けていた手を切り落とそうとしていた。
しかし、その剣は無情にも自分の腕を通り過ぎるだけだった。
何で!!!!!
何で気づけなかったの???
あの胸騒ぎがした時に!!!・・・・・彼がこういう人だと知っていたのに!!!!!!!
白雪が一生懸命、何度も剣を自分の腕に振り下ろしているのを僕は掴むと、ギュッと抱きしめる。
「・・・・・白雪。これからは、君がこのパーティのリーダーだ。・・・・・皆を。皆を頼んだよ。」
白雪は僕の胸に顔をうずめながら叫ぶ。
「私は!!!!!!!!貴方を!!!!!!
絶対に忘れない!!!!!!!!!!」
白雪は僕の腕の中で消えていった。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・ごめん。
・・・・・・・ごめん。・・・・・・・皆。
暫く、沈黙した後、僕は呟く。
「・・・・・さてと。」
僕は顔をあげて、ゆっくりと剣を抜くと、振り返って白い者達を見て言う。
「僕はこの世界が結構気に入っているんでね。
滅ぼされる訳にはいかないんだ。」
僕は大きく深呼吸してから叫ぶ。
「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・ハァァァァァァァァァァァ」
「かかってこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
白い者達へと僕は駆けていった。
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