第82話 冒険者の国
「ふぅぅぅぅぅ。やっと着いたな。」
僕達は今、『オロプス』の国境にいた。
一ヶ月ほど前にアルク帝国から出発した僕達は、面倒なので、まずは帰還紙を使って、東の大国『アルメリア』に行き、そこで旅の準備を整えてから、馬車を手配して、北へと向かった。
道中は、体を慣らす為に、ダンジョンに行ったり、村で被害が出て困っていた野獣を倒したりと、小国を渡りながら、寄り道をしていたので結構、着くのに時間がかかってしまった。
僕は国境付近を見渡す。
うん。見事に何もないな。
そうなのだ。
どこの国でも、だいたい国境には検問があり、壁があったり、川があったりと何かしら侵入を防ぐ事をしている。
しかし、大国と言われているこの国の国境には、何もなかった。
あえて言うなら、地面に魔法の線が引かれていて、国との境目が分かる様になっていた位だ。
「国境なのに、検問も何もないね。」
カイトが不思議そうに言う。
「だよなぁ。無防備もいいとこだな。・・・・・まぁ何か理由があるのかもね。」
後で、この国の情報を集めないとな。
僕達はそのまま、検問も何もない国境を素通りして、シェリーさんがいる首都『サイン』を目指した。
☆☆☆
「はい!次の方どうぞ~!」
首都へと着いた僕達は、いつもの様にトレードマークの仮面を付けてから馬車を降りて、入る為に順番待ちをしていた。
もの凄い長蛇の列だった。
見ると、商人や現地人は変わらず見かけるが、特に目に入ったのはプレイヤー達だった。
並んでいるほとんどの人達がプレイヤーなのだ。
今までは逆に見かけなかったので、ある意味新鮮だった。
そして、ここへ来る途中に、丘の上から見たこの国の首都は、もの凄く広かった。
中心の城から何重にも円の様に壁があり、高い建物が所々に見える。
流石大国と言った所か。
今まで見た首都の中で一番広いかもしれない。
そうこうしているうちに、僕達の番になったので、冒険者証を渡すと、その衛兵は目を見開き、緊張した面持ちで、話しかける。
「あっ、あなた達は『ホワイトフォックス』様ですね。」
ザワッ
衛兵がパーティ名を言った途端、周りがざわつき始めた。
「おいおいおい。あれが『ホワイトフォックス』?」
「どれどれ??」
「まじか!来たんだ。」
「聞いた?『ホワイトフォックス』だってぇ~!クランマスターに言わなくちゃ!」
何かプレイヤー達の声が聞こえる。
SS級だから結構有名になっているのかなぁ?
気にはなったが、とりあえず受付を済ませ、首都『サイン』へと入った。
「うぉぉぉぉぉぉ。凄いな!」
「なにこれ~!」
「・・・・・なんか凄い。」
僕達は思わず声をだした。
入った瞬間目に入ったのは、所々に大きな魔法鏡が設置してあって、その魔法鏡に映っているのは、綺麗な女性が歌っていたり、
グループでダンスをしていたり、男女が様々なファッションを着てアピールしていたりしている。
そして、周りは音楽で響き渡り、とても賑やかだった。
・・・・・これじゃまるで、地球のとある国の街みたいだな。
所々に見える高い建物や街並みは、レンガ作りで出来ていて色とりどりの風景が広がっていた。
今までにない街並みだった。人もとても多く行きかっている。
見ると、仲間達もこの光景は初めて見たのか。はしゃぎまくっていた。
ハハハ。皆、この光景が新鮮なんだな。・・・・・とりあえず宿の前に、冒険者協会に行くかね。
僕達はシェリーさんに会いに、冒険者協会本部へと向かった。
☆☆☆
「はぁぁぁ。・・・・・・疲れた。」
「フフフ。そうでしょう。そうでしょう。他とは違うもんね。」
シェリーは12階のスカイカフェで、仲良くなった仕事仲間のマーリとお茶をしながらため息をついた。
ここは冒険者協会本部。
大国の協会から小国の協会まで見てきたが、館の大きさは群を抜いていた。
この館のフロア自体がとても広くて大きい。しかも、12階建てだ。こちらへ来た時にまずは見た目で圧倒されてしまった。
そして、異動して数週間経ったが、まだ仕事に馴染めずにいた。
まず、大変なのが、冒険者の数。
この国は5大国の1つ。強者の国『オロプス』と言われている。
・・・・・そして、別名『冒険者の国』。
その名の通り、全世界の冒険者の半数以上がこの国で登録をし、活動をしている。
特にこの数年で更に急増したらしい。
他の国とは考えられない程の受付の量だった。
もちろん、その分、私と同じ様に、職員が大勢いる。そして、本部というだけあって皆、スキルが高く、仕事がとても早かった。それでも足りなかった。
流石、全世界の冒険者協会を統括する場所ね。
でも、何で私なんかが呼ばれたんだろう。
そう思わずにはいられなかった。
・・・・・多分。彼のせいね。
私達、受付の担当官には、冒険者を1つ担当として受け持つことが出来る。
それは、冒険者と担当官の信頼の証であり、冒険者が引退するか不慮の事故で死ぬまで、サポートをする。
だからこそ、担当官も、その冒険者を選ぶ時は慎重にならざるを得なかった。
でも、私は、初めて彼と会ったあの時。受け持つなら彼しかいないと思ったんだ。
まだまだ未熟な彼を見守って、ずっとサポートする。
そう誓ったのだ。
でも、まさか、ここまで彼が成長し、有名になるなんて思ってもみなかった。
彼が率いるパーティが有名になればなるほど、私なんかでいいのか疑問に思ってしまう。
まだ『ナイージャ』の冒険者協会にいた時に、直接、冒険者協会のトップ。
ベルメゾン=ガーリッシュが来て、本部の異動と、レイ達『ホワイトフォックス』を呼んでほしいと言われたのだ。
「はぁぁぁぁぁぁ。何か私、やっていけるのかなぁ。」
もう一度。シェリーはため息をつく。
「シェリー。支店から来た子は皆、最初は同じよ。大丈夫。私も付いてるから。」
マーリは笑顔で答えながら続ける。
「でも、シェリーの専属パーティが今、全世界で一番話題の冒険者だからねぇ。
フフフフフ。諦めな。」
「うぅぅぅぅぅ。マーリの専属パーティも凄いパーティじゃない!もう!!!!」
そう。
マーリの専属パーティは、世界にまだ9組しか存在しないSSS級パーティの1つなのだ。
「はいはい。もう休憩時間も終わりよ。さぁ。頑張りましょう。」
そう言ってマーリは立ち上がると、動こうとしないシェリーの手を取って引きずりながら仕事場へと降りていった。
☆☆☆
「うぉぉ。でかいな。」
僕達は冒険者協会本部に来ると、思わずその大きさにビックリした。
今までの冒険者協会とは桁が違っていた。
流石本部と言った所か。
高い建物を見上げながら中へと入ると、これまた広いな!この広さで12階建てというんだから、凄い。
屋敷の中なのに真ん中に噴水があり、冒険者らしい銅像が立っている。
そして、かなりの数の冒険者が行きかっていた。
スキル【天眼】を使って見ると、ここにいる冒険者のほとんどが、プレイヤーだ。
多分ゲームの時は、多くのプレイヤーはこの国がメインだったんだろうと思った。
やっぱり、リアルになっても、同じプレイヤーだった人達がいるとなんか安心するな。
そう思いながら、僕達は案内場へと向かった。
「すみません。ちょっとお聞きしたいんですが。」
「はい。なんでございましょう。」
仮面を被っている僕達を見ても、表情一つ変えない。これだけいるんだ。色々な冒険者がいるのだろう。
「担当官のシェリーさんを探しているんですが・・・・・。呼んでもらえますか?」
「はい。シェリーですね。・・・・・ん?貴方達はもしかして・・・・・。」
そう言うと、僕を見る。
「あぁ。すみません。僕達は『ホワイトフォックス』といいます。」
「!!!!!あっ!そっそうですか!はっはい!しっしばらく中央でお待ちください!」
さっきまで、表情一つ変えなかったのに、名前を出した途端、大慌てでどこかへと消えてしまった。
仕方ないので、言われた通り、僕達は中央の噴水の方へと戻って待っていると、数分でシェリーが現れた。
「レイさん!」
「シェリーさん!久しぶりですね!」
シェリーは言いながら僕にハグをしようとしたが、隣にいる白雪とラフィンに取り押さえられた。
「フフフ。白雪ちゃんも、ラフィンちゃんも相変わらずね。・・・・・ねぇレイさん。ゆっくり話したいんだけど、とりあえず、私達のマスターが挨拶をしたいと言ってるの。会ってもらえるかしら?」
「えっ?そうなんですか?僕はシェリーさんに会いに来ただけなんだけどな・・・・・でも、いいですよ。」
「本当?ありがとう!」
シェリーさんにも立場があるだろう。
会わないでシェリーさんの評価が下がったらやだもんな。
僕達はシェリーの後に付いて、魔道エレベーターで最上階へと上がっていった。
☆☆☆
最上階の中央にある扉を開けると、一人の男がいた。
その男は40代位だろうか、大柄で、顔や体のあちこちに古傷が見える。そして、体をまとっているオーラは一線の冒険者と変わらない雰囲気を感じさせた。
僕達に気づくと、椅子から立ち上がり、真っすぐに僕の方へと歩み、手を掴み、握手する。
「おぉ。君達が『ホワイトフォックス』か!初めてお目にかかるな。私は、冒険者協会を取り仕切っている、ベルメゾン=ガーリッシュという。」
「始めまして、ベルメゾンさん。僕は『ホワイトフォックス』のリーダー、レイ=フォックスといいます。」
「・・・・・君がレイ=フォックスか。・・・・・レイ君と呼べばいいかな?」
「ハハハハハ。お任せしますよ。・・・・・ところで、何で僕達を呼んだんですか?」
「ふむ・・・・・。実は君達にお願い事があってね。シェリー君に呼んでもらったんだ。」
「お願い事?」
そう言うと、冒険者協会マスター、ベルメゾン=ガーリッシュは、僕を見て言う。
「SSS級冒険者になるつもりはないか?」
「はい????????????????」
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