第7話 変態、衣装をビリビリに裂く
――ビリビリビリッ!
衣が引き裂かれた音が鳴り響く。
椿の着ていたボディコンが破れ、下着だけのあられもない格好になる。
良き鍛えられていることが分かる筋肉質――それでいてちゃんと女として主張するという素晴らしい身体付きをしている。
どうやら椿は着痩せするタイプのようだった。眼福だ。ごちそうさま。
〝鬼畜度Ⅲ〟は『仮装引裂』
視認した対象の衣服を指を鳴らすことでビリビリに強制脱衣させることができる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ! 構わず、斬る!」
椿は目尻に涙をため、唇を噛み締めることで耐え忍んでいた。
ここで俺の首を刎ねることができれば布切れを見せることなど、どうということはない。だそうだ。その割には涙目なのな。
嫌いな男に下着姿を視姦される辱めに耐え切る精神力は褒めてやりたいところだが――甘いな。
服を引き裂かれることは何を意味するのか理解していない。
戦闘をただの点として捉えているからこういうことになる。
実は線になってんだよ。
彼女には見落としが二つある。
まず一つ。
「――⁉︎ 『
『仮装引裂』は発動寸前の《魔法》を
椿が精神統一として他の連中に稼いでもらっていた時間は全て水の泡。儚く散ったのはお前の剣術の方だ。
『仮装引裂』は生娘に効果的面だが、ガバガバのあばずれにとっては効果が薄いわけで。
中にはお前のように忍耐力に物を言わせて恥ずかしさを押し殺すようなやつだっているわけだ。
こっちは間合いに入られたあげく、剣術秘伝を浴びせられようとしてんだぞ?
脱衣させるだけとか、どう考えたって心許なさ過ぎんだろ。
構わず、斬る! じゃなく、何か起きるかもしれないと警戒が先であって欲しかったよ。天才ならな。
そういう意味で見落とし二つめ。
衣装が引きちぎられたということはパンチラどころかパンモロ状態。
当然『風刃』発動条件を十分過ぎるほど満たしている。
よって壁行き決定。
下着姿で吹き飛ばされていろ。
いよいよ〝鬼畜度Ⅲ〟になってしまった俺はパンパンと手を叩き、こちらに注目させる。
彼女たちが俺に一矢報いることができるとしたらここらが限界だ
これ以上進行すれば、誇張でもなんでもなく本当に手も足も出なくなるだろう。
「はーい、ちゅうもーく」
あいも変わらず憎悪がこもった眼差し。
警戒を怠わらない姿勢は評価してやるが、ちょっと簡単にやられ過ぎ。
入学して日が浅いということもあるだろうが、全員利害一致の共通の敵が現れてんだ。もうちょいなんかあんだろうが。
たしかに一つ一つの《魔術》や《魔法》こそ、強大だ。だがそれを発動することだけに集中し過ぎ。
上級魔術に耐えられる存在が身近にいなかったこともあるんだろうが、戦は〝連鎖〟だ。
いかに己の勝ち確ルートに落とし込めるか。相手を誘導できるか。それが鍵を握る。
そういう意味で言えば俺はすでに勝ち確。一体いつからだって?
それを考えなければいけないのは天狗になった天才様方だ。
「危機感なさ過ぎ。一旦、〝鬼畜度〟の針を止めてやるからおさらいだ。お前らがいまどういう状況なのかよーく考えろ」
『風刃』で壁に飛ばされた椿の下着が粒子と化していく。
彼女は一秒でも早く肌の露出を隠したいのか、すぐ近くにあったメイド服に触れる。
へえ……メイド剣士か。
しかも負けん気が強く、武士のような言動付き。見持ちも硬そうだ。
この
「……って、おいおい。さっさと下着も選べよ椿。ノーパンメイドで俺に挑む気か?」
「ふんっ。その手には乗るものか。この汚らわしい《固有領域》は貴様の薄汚い欲望そのもの。女の下着を覗くことで風魔術が発動するようになっている。だから我々に下着の山を最初に視認させた。『風刃』発動後、貴様好みのものに穿き替えさせるために。であるなら、下着を選ばなければ私たちが壁まで吹き飛ばされることはない。違うか、外道!!」
真面目な顔で何言ってんのこの娘。呼吸できない状況でよく喋れるな。さすが鬼。肺活量が桁違いということか。
でもまっ、乗っておこう。
椿の指摘に俺は片手で顔を隠して「くくく……っ」と不敵な笑みを浮かべる。
『仮装自在』に緊張が走る。
こういう意味深な演出、一度やってみたかったんだよな。
一通り楽しんだ俺はきっぱりと告げる。
「違うな」
「なっ!」
「いや、まあ正確には間違ってないけどな。たしかにこの空間にある下着はいずれも俺の癖にブッ刺さるものばっかだ。ミニスカをめくりまくって好みの下着を穿かせようというところも正解。だが、ミニスカの下はノーパンでもいいという、その浅はかな思考だけはいただけないな」
人差し指を指しながら断言する俺にあの誇り高き剣士の椿が肩に手を抱きそうになっていた。
色んな意味で俺のことが怖くなっているようだ。
……お前、内心じゃ「きっしょ!」とか思うタイプなんだ。
ふーん、あっそう。
おじさん傷付いちゃった。
「パンチラってのは奇跡なんだ。分かるか? ああ会社に出勤したくないなーって気持ちで階段を上がっているときにたまたまミニスカの中が見えてしまっただけで男は一日を乗り切ることができる生物なんだよ。もちろん何も穿いていない――それもいい。言葉では言い尽くせない魅力がある。しかし、スカートの中にパンツが潜んでいないパンチラなんて何の価値もない。神への冒涜――約束された奇跡を否定する愚者だ。神への反逆者と表現してもいい。何が言いたいかもう分かるな?」
「「「「……」」」」
だから椿。心の中で「きっしょ!」とか罵倒するなよ。
せめてそういうことは口に出して言え。
「……ごほん。この世界で下着を身につけずスカートをめくられたら呪いが発動するんだよ。それも〝即死〟のな。まあ当然の報いってやつさ。約束された奇跡を否定するんだから。裏付けはそうだな……ロゼ。お前なら分かるんじゃないか?」
俺の言っている裏付けを《魔眼》を持っているロゼに確認させる。
彼女は視覚で裏を取ったあと、
「……とりあえず言うことは聞いておいた方がいいみたい」
「まさかあいつの言っていることは本当なのか……」
信じられない、とばかりに目を丸くする椿。
彼女は悔しそうな表情を浮かべたまま下着に触れる。
もちろん俺はどんな下着を選ぶのか視姦させてもらった。
それもこの領域の醍醐味だ。
ふむ、縞パンか。悪くないチョイスだな。
「というわけで脱線しちまったが、次の一分。この一分は死ぬ気で来い。針を止めておいてやるから。セクハラしか能のない男の奴隷になりたくねえんだろ。いいか? 絶対に思考を停止させるな。俺が何を企んでいるのか。何が狙いのなのか。針がⅣやⅤを示したとき、何が待ち受けているのか。そういったことにも想像力を働かせて、よーく聞けよ?
『仮装自在』は書いた時のごとく、仮装を自在に操作できる空間。お前たちは閉じ込められてすぐミニスカを強制着用させられた。
【鬼畜度Ⅰ】
ミニスカをめくられたら風魔術『風刃』が発動し、壁まで吹き飛ばされる
パンチラすると穿いていたパンツは粒子となってノーパンになる。
代わりの下着は『仮装自在』に浮いている下着に触れるだけで着用可。
『風刃』を回避するためだからと言って、ノーパンのまま挑むのは愚の骨頂。
息ができないようになっている。
さらにノーパンのままスカートをめくられたら即死の呪いが発動。
頼むから穿いてくれ。win-winで行こう。
【鬼畜度II】
《魔術》や《魔法》を喰らう《魔道具》『
空腹を満たしたブラは『仮装自在』に舞う。
【鬼畜度Ⅲ】
『仮装引裂』により
発動条件はお前らが探れ。下着姿になるということは当然『風刃』が発動する。
言うまでもないことだが、コスプレ衣装を選ばないという選択肢はねえからな?
なにせ俺が下着を目に焼き付けた瞬間『風刃』が発動するんだから。
もちろん
俺の視界に入る→壁まで吹き飛ばされる→新しい下着を選ぶ→俺の視界に入る→壁まで吹き飛ばされる→つうループを味わいたいドMがいたらそうしてくれ。
ちなみにそれはさすがの俺でも引くけどな。
【鬼畜度ⅣとⅤ】
何が待ち受けているのかよく考えろ。
出血大サービスでお前たちが気を配らなければいけないヒントをやるよ。
男が喜ぶのはパンチラだけじゃない。胸チラやブラチラ、乳揺れもだ。
ということは忘れちゃいけない存在があったはずだ。
点ではなく線で考えろ。
鬼畜度が上がるに連れて披露したそれらは繋がっていて鬼畜度Ⅳ、Ⅴで回収される。
想像力を働かせれば鬼畜度Ⅳに上がるまでの二分間で何をしなければいけないのかが見えてくるはずだ」
さて、とりあえず言うべきことは言った。
ヒントに関しては助言そのものが鬼畜とも言える。可哀想だと思わなくもない。
なぜなら彼女たちにとっての最善、最適解が俺の勝利をより確実なものにしていくことと同義だからだ。
彼女たちが取らなければいけない答えは針がⅣを指し示すまでに、なんなら刺し違えてでも俺を仕留めること。
出し惜しみや躊躇、迷いなどは一切不要ということだ。
そこは天才たちも肌で感じ取っていたんだろう。シンキングタイムが始まっていた。
『……これから即席のコンビネーションを練るよりも個が全力でぶつかる方がいいと思うのだけれど、どうかしら?』
なるほど。下手に作戦を立てるよりも、これまでの自分たちのように個としてぶつかろうってわけか。
タイムリミットが迫っている上に、魔法使い・魔術師にとって扱える手札を明かすことはご法度。
ピカピカの新入生という手前、誰が何を隠し持っているかわからないもんな。
そんな現状でコンビネーションを練るのは困難を極める。
中には不協和音になりかねないやつだっているかもしれない。
せいぜいチャンスだって一度限りだろう。
そういう思考に至ることは痛いほど理解できるよ。納得はできねえがな。
なにせその決定はお前たちの奴隷決定を意味する。
この空間では圧倒的に俺が強い。
像一匹に猿四匹がそれぞれぶつかってきたところで勝ち目などあるはずがない。
だが不可能じゃないはずだ。
この比喩で言うなら彼女たちは蟻じゃなく猿だからだ。
知恵を振り絞り、罠をしかけ、対象を惑わせ、全員が一つのゴールを目指せば象が想像もできない展開で一泡吐かせることができるはず。
個として全力を出し尽くすことで後悔を最小に抑えたい心理が働くのも理解できるが果たして三人は――。
『賛成しますわ』『さんせー』『セラに同意しよう』
……がっかりだよ。お前らにはな。
肩を落とした次の瞬間、
「極級魔術――」「上級魔術――」
「極級魔法――」「――流剣術秘伝」
全神経を集中させて出し惜しみなく最強の一手を放とうとしていた。
お前ら当然のように極級って言葉を使うんじゃねえよ!
去年の新入生でもせいぜい二人だったんだぞ⁉︎
前言撤回! やっぱお前ら凄えわ!
やべえ!
さんざん内心で『実はデキる講師なんだぜ』風を吹かせて余裕ぶっかましていたけど死ぬかも!
この天才たちに二分は与え過ぎだったか⁉︎
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