第5話 変態、容赦しない
壁まで吹き飛ばされたセラと乳デカは屈辱と軽蔑、その他、負の感情が入り混じった顔で睨め付けてくる。
ミニスカをめくって『風刃』が発動するなんてふざけている。
大方、そんな心境だろう。
事実《読心術》でだだ漏れ。
こうなってくると思う壺というか、俺の優勢は確固たるものになっていく。
軽視していた非常勤講師のふざけた戦闘はやつらの平常心をガリガリ削っていくからだ。
ここで一度深呼吸し、冷静になれるかどうかが、勝率ゼロパーセントから一%未満に引き上げる境目だが、これまで挫折を味わったことのない彼女たちには無理な話だった。
「「さいっっっっっってい」」
ため過ぎだろ。
「最低で結構。コケコッコー。それよりどうだセラと乳デカ? スースーしないか?」
俺が意地の悪い笑みを浮かべると二人はすぐさまスカートを下げるように手を伸ばし、そしてあることに気が付いた。
「……殺す。絶対に殺すわ!」
「こんな辱めを受けたのは初めてですわ! 覚悟はできていらっしゃって⁉︎」
「落ち着けよ二人とも。たかがノーパンになったぐらいで」
「「ふざけないで!!!!」」
激昂。まさしく赤鬼だった。
当然だが、俺はふざけていない。至って真面目。大マジメである。
ただ行使する《魔法》がこいつらにとってちょっとアレなだけで、こっちは死なないよう全力だ。
「まあ聞けよ。おっと、よせ椿。今ここで俺の補足を中断したら、死ぬぞ?」
読心術で椿が仕掛けてようとしていることを察知した俺は《抜刀術》の構えに入った彼女を制止する。
本当にやめてあげれ。
冗談抜きで死ぬぞ?
特にセラに関してはなまじ不死身な分、耐え難い苦痛を味わい続けることになる。
俺の言葉に耳を傾けたことで椿が揺らぐ。
状況が状況だけに即決しかねている感じか。
――優柔不断すぎる。判断も遅い。なによりあらゆる点において直線的過ぎる。
これまで超高速の《抜刀術》で相手を制し続けてきた弊害だな。
巧みな言葉と挑発、初見の《魔法》を視認して混乱しているようだ。
世界は広い。
戦争ではこういう屑みたいな戦い方で生き延びる魔法使いや魔術師はザラだ。
相手がいつも瞬殺されてくれるなんて思い込みは、そうならなかったときに容易く弱点になる。
「……貴様、またハッタリか?」
などと強がっているが、情報を引き出さなければ、なんて心の声がだだ漏れ。
まっ、名実ともに俺は紳士だからな。ちゃんと教えてやるよ。
「『仮装自在』に閉じ込められてから、この宙に浮いている下着の山が気にならなかったか? この創造世界の中ではパンツを穿かない人間は呼吸ができなくなるんだよ」
言ってすぐ身体の異変に気がつくセラと乳デカ。
喉に手を当てて酸素が吸えなくなっていることを認識する。
「貴様っっ!!!!」
呼吸ができない、という鬼畜っぷりに常に冷静を装っていた椿の本性が滲み出る。
感情の起伏が激しい。
『
――心の外に刀なし。
優劣があるときは無敵ではない。
強敵を前にしているときは緊張し、しなやかなに刀を振るうことができず、反対に弱者の場合は心が穏やかになり思いのまま太刀を振るうことができる。
剣士なら当然この教えを知っているだろうに。感情の整理は刀を扱う魔法使い、魔術師なら必須スキルだろうが。
「……ダメ。風属性の《魔術》でも酸素を補給できない。呪いに近いかも」
とロゼ。ギャル魔女は見た目に反して冷静に周りが見えているようだった。
俺を遠隔から石化させようとしたのも得体の知れない魔法使いに接近するのが危険だと判断したからだろう。
俺は椿の斬撃をより躱しやすいものにするため、さらに引っ掻き回すことにした。
「選ばせてやるよ、椿」
「ふざけるなァッ!」
どうやら俺の選ばせてやるをセラと乳デカ、どちら一方だけを呼吸できるようにしてやる、と解釈したようだ。
怒りは知能指数を著しく低下させる。視野と思考をどんどん細めてしまう。
椿にも説いてやりたいことは山のようにある。もちろん面倒だから頼まれてもしないけど。
「うるせえな。叫ぶんじゃねえよ。耳がキンキンするだろ。選ばせてやるってのはセラか乳デカのどちらかじゃなくて、次に穿くパンツを、だよ」
「「「「……」」」」
言葉を失う四人。
はい、いまゼロ点からマイナス百点になりました。
姑息な魔法使いを前に思考停止することは死を受け入れたことと同義。
聞く姿勢一本になった時点でお前らは全員いま死んだ。お、し、ま、い、デスッッ!!
「気に入ったパンツがあれば触れろ。そうすれば自動的に着用される。それで呼吸も再開できるようになる」
「変態め……どこまで私たちをコケにすれば気が済む!」
助かる術を耳に入れてすぐに抜刀する椿。現金なやつだな。
「《抜刀術》『雷神』」
またそれか。内心で呆れ果てる俺。
まして今は感情的になって我を見失っている。
俺は必要最低限の捻りでそれを躱し、抜刀の隙――反動でコンマ数秒動けなくなるその間にスケスケのボディコンをめくる。
はい、椿も壁行き決定〜!
「……すまないっ!」
壁に吹き飛ばされた椿をセラと乳デカが力を合わせて受け止める。
やがて不死身のセラが体質を活かして――下着に触れることによる罠の有無――を確かめる。エグい下着に指先が触れた。
「おいおい。これまたすっごい下着を選んだじゃないの。言っとくがミニスカを捲られたら、俺にガン見されることを忘れるなよ?」
『……作戦を練りましょう』
セラが《読心術》で四人に呼びかける。
悪くない判断だ。
だが、長々と話合う時間はねえぞ?
――針がIIを指し示した。
ここからまた〝鬼畜度〟が増す。
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