第8話 冒険者ジルク-4
何か戦う方法がないかと考えながら歩き、次の階層へ上る階段に足を乗せようとした瞬間、一つ考えが思いついた。
「生命力による身体強化ならどうだ?」
この世界には生命体が持つ力はいくつかある。魔力、魂、精神力、そして―生命力。
どれも似たような使い方をするとは言われているが、どれか一つしか使えないのが世の常だと言われている。
だがやはり世の常から外れた者もいる。俺もほんの少しだけ外れた一人だ。
使えるのは生命力を少しだけ。通常は魔力を使っており、そちらの方が遥かに多いうえ使い方も上手いため使う機会はほぼなかった。
だが今はそれだけの希望でも十分だ。考えながら必死に使えば使い方は上手くなっていくものなのだから。
息を整えて腹の下あたりに生命力を集める。そして全身へと力を行き渡らせ、従来の魔力による身体強化と同様に身体に載せていく。
「どうだ?」
髪に手を当ててみる。さっきまで触っていた髪とは長さも、髪質も全く変わっていない。
これなら使える。
「少しずつ階段を上っていこう。奴が覗いている可能性は否定できないからな」
一歩ずつ階段を上っていく。生命力による強化の訓練を一気に進めながら。
魔物に対抗できるようになるには間に合うか分からないが、何もないよりかはマシだ。
「クソッ!」
俺がそう言う風に対策するのが分かっていたかのように、階段はすぐになくなり上層が見えてしまった。
そしてミノタウロスがいた時と同様に、広間が広がっていた。同じことが二回続いたということは奴がやりたいことというのはこういうことなのだろう。足は踏みいれず、階段の上がり切る寸前で様子を確かめる。
戦闘を繰り返し、魔術を使わせて感性を近づけさせる。死と隣合わせである以上、使わざるをえない。
そういう筋書きなのだろう。
そうなると広間には魔物が居てしかるべきだ。さっきのミノタウロスのように。
だが魔物の様子は見当たらない。それが示すのは一つ。
「奇襲か」
入った瞬間に奇襲をしかけ、深手を負わせるつもりなのだろう。そうすれば回復魔術を使わざるをえず、そのために距離をとらなければならなくなる。
足が速い魔物ならそこで距離がとれずに死ぬ、だから強化魔術を使う。そこまでの予想を踏まえるなら対策は簡単だ。
「奇襲を防げばいいな」
生命力で身体能力や身体強度を強化し、俺は広間に踏み入った。同時に直情から魔物の気配が現れる。
前方へとダッシュするように走り抜ける。そして振り返って魔物を見据えた瞬間―
俺はサキュバスの魅了に囚われた。
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