第14話 急がば回れ 回れば急げ

 通学路の途中で、昨日の一件を思い出す。

 そういえば、今日は天道桜との件を解決しなければ......。

 昨夜、この事で一晩考えた結果、やはり見てないということで突き通そうと決断した。

 俺の言い分はこうだ。

 自分のノートと気付かずに持って帰ってしまい、そのままノートを使うことなく昨日まで来た。

 昨日の授業中に自分のノートと思い、あのノートを開いたら一ページ目の時点で自分の字とは違っていた。慌ててノートを閉じて表紙を見たのだが、名前が書いてなかった。

 それで、昨日委員長として天道桜に相談をした。

 よしっ、これで完璧だろう。

 どこで拾ったかと聞かれたら記憶にない。一度、鞄をひっくり返した時にそのノートが混じってしまい一緒に鞄の中に入れたのではないか。

 と、まぁこんな感じで話しておけば怪しまれる点もないし信じてくれるだろう。

 彼女は真面目で優しくて良い人だし、あのノートの殴り書きだってもしかしたら何かの勘違いかもしれない。もしや、彼女は演劇部で演劇の台本だったり?と、それは流石にないか。

 そうこう天道桜への言い訳をシミュレートしている間に学校へ着く。

 うちの学校は桜が綺麗だ。春になると新入生達を明るく笑顔で出迎えてくれる。

 新入生はこの桜を見て期待を胸に膨らませるのであろう。

 こっちの桜はいつもと変わらないなぁなんて思いながら、校舎に入り教室へと向かう。

 流石に四日も経ったからか委員なんかも決まったからか、廊下から響く声が以前よりも騒がしい。

 この時点でもう友達関係は既に作られていて、派閥が別れているのだろうと推測する。 

 四日で人の何を知れると言うのだろうか。

 と、他人の事を考えてる暇なんて今の俺にはない。

 まず、どうやってその話題に持っていくかだ。

 いきなりそんな話を仕掛けてもおかしい。というか、俺はそもそも天道桜に対して積極的に話しかけるような人間ではない。

 まぁ、そこは委員長ということもあるし、二人きりの場面でなら怪しまれないかーー

 こんなことを考えてる間に教室へ着く。

 扉が開いたままだったので、物音一つ立てずに入室することができた。

 自分の席へと向かう。そこで気が付く。

 天道桜の机はとても綺麗でまるで空き教室にある机のようだ。

 鞄が掛かってない所を見ると、恐らくまだ登校してきていないようだ。

 珍しいな。彼女が俺よりも遅いだなんてーー

 そんな風に思って、俺は席につき鞄を置く。

 まずは、天道桜が登校してきた時に目を合わせる。そうすると恐らく向こうから挨拶をしてくるはず。挨拶を返す。そして昨日は掃除お疲れさまとねぎらいの言葉をかける。

 これで、天道桜の評価も上々といった所だろう。

 自分からは挨拶が出来ない事を踏まえた我ながら完璧な作戦だ。

 敵を知る前にまずは自分をよく知ると言った所だろうかーー

 本日の作戦は完璧である。後は、これをどうやって実行に移し、成功に導くかだ。

 まぁ、後はなるようになるだろう。

 こうして心の準備が整った頃にチャイムが鳴った。

 天道桜が姿を現すことはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る