銀杏

@syumidesyosetsu0204

第1話

飛んでいるようで落ちているだけの花びらが地面に触れる。舞っているサクラはキレイだが、落ちてしまえばただの落ち葉と同価値であることを悟る。

この桜木通りには名前の通り無数のサクラの木が並んでいる。3月も下旬に入ると桜の開花をいち早く見ようと桜通りは普段にも増して賑やかになる。

4月上旬。遂にサクラは満開となったが1本だけ無様な樹木がある。そしてその樹は枯れていた。春に咲かないこの樹は、花見をしに来た酒呑みの日頃の鬱憤の捌け口かのように罵声を浴びているその正体はイチョウの木であった。


私はイチョウの木好きだ。イチョウの木には黄色の実が成る。それは踏むとたちまち異臭を放つようになり、臭い臭いとまたもや罵倒を浴びせられている。そこが私がイチョウの木を好きな理由でもあるのに。この木が黄色の実、即ち銀杏を落としていていることは一体どれだけの人間が知っているのかと毎年疑問に抱くが、みんな知っているだろうと周りの人間には聞いたことがない。

11月中旬。イチョウの木が満開になるとサクラとイチョウの立場は逆転するのである。さくら通りを改め、枯れ木通りに成れ果てたその通りに孤高の王樹のような存在感を放つイチョウの樹は皆の目を唖然とさせる。その美しさはイチョウの木が落とす銀杏の臭いは人々の美的感覚の中では無となる。いつも悪口ばかり言われるその樹はその時期だけは一切の文句も言われないその姿は、まさしく秋の帝王であった。私はそんな人になりたいと思う。

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