ワタシの望む永遠を3

金曜日の温室。

大分、日が暮れるのも早くなる季節。

夕方にはオレンジ色の光がエンジェフラワーとエイトを照らしていた。

小さな声で何かブツブツ、とエンジェフラワーが呟きながら麻雀牌を拭いている。

「どうしたの、エンジェ」

麻雀のすすめという初心者向けの本を読んでいたエイトが問いかけた。

ハッ、としてエンジェフラワーはエイトの方を見る。

困った様な顔をしてエンジェフラワーは眉を下げた。

「だいじょーぶですよぉ、エイトちゃん。ちょっと良い事があったんですぅ」

嬉しそうに頬を緩めて見せればエイトはきょとんと首を傾げた。

「良い事があったんだね、良かった。何があったのか聞いても大丈夫な感じなのかな?」

勿論、駄目だったら言わなくていいからねと両手を降った。

その様子に楽しそうにくすくすとエンジェフラワーが笑う。

そして席から立てばエイトの方へと歩み寄り、肩へと両手を置いた。

「ふふ、見つけたんですよ、会いたかった人を」

うっとりとした顔をしながら透明な硝子窓を眺める。

硝子窓の外からは夕日が差し込んでいた。

「会いたかった人?」

エンジェフラワーの言葉に思わずエイトは固まる。

そんなにも大切な人が彼女にいたのか。

そう思うと何故か胸の奥がズキ、と傷んだ。

「はい、会いたかった人です。ずぅっと、ずっと思っていた人なので早くお礼がしたいですねぇ」

エンジェフラワーがエイトを抱き締めれば肩へと擦り寄る。その頭を優しくエイトが撫でた。

「お礼って事はなにかしてくれた人なのかな?」

エイトを抱き締めつつもエンジェフラワーが顔を埋めたまま頷く。

「そうですねぇ。とぅっても、いいことをしてくれたんですよぉ」

表情は見えなかったが声が暗かった気がした。

「そっか……そしたら、その子に会ったから君はもう、ここには来ないのかな」

ちょっと寂しいや、とエイトは目を伏せる。

その言葉にエンジェフラワーはきょとん、とした。

「何言ってるんですか、エイトちゃん」

エンジェフラワーはエイトの両頬に手を添えればこちらへと向かせる。

「私の大切な人はエイトちゃんだけですよぉ。来なくなるなんてことはぜぇったいないです!安心してください」

あの人とは一度顔を合わせたいだけです。

そう言って安心させようとむにむに、もエイトの頬をもんだ。

「そっか、良かった……」

エイトが瞳を細める。

外の夕日が闇に飲み込まれていった。


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