三十五章 毒林檎を食べた姫は棺の中へ

リリー。紡要舞が魔法少女になって数ヶ月が経った。

ある日の昼下がり、魔法少女が集う温室を作ろうとして早数ヶ月。

大分完成に近づいてきた。

何故、温室を作ろうとしたのか。

それは、魔法少女の秘密基地が欲しかったからだ。

理由は単にかっこいいからである。

いくら見た目が可愛い魔法少女といっても、中身が男子高校生だから仕方ない。

そう要舞は遠くを見つめる。

秘密基地を作ってる時に思ったことがある。

魔法少女の姿の方が体力も筋力も不思議な程にあった。魔法だって使える。最初は大変な作業だと思っていたリリーだったが、意外とすんなりとここまで来れた。

リリーは頑張ったなぁと温室の外装を眺める。

そんな時、隣でカーテンを縫っていた二宮御影こと、メリルがうーんと首を傾げた。

「んー、何か足りないんだよねぇ」

眉間に皺を寄せつつ、小さな声で呟く。

「足りないって何がかしら?」

魔法少女の姿に大分慣れたのか女の子口調もすんなりと出るようになっていた。

「うーん、なんて言うか、完璧な魔法少女になるには条件がいるの!でも、リリーちゃんはまだ、もうひとつの条件をクリアしてないんだよねぇ……」

どうしようかとメリルは首を傾げた。

「もう一つの条件……?」

その言葉にリリーはつられて首を傾げる。

なんだろうかとうーん、と顎に手を当てて上を向く。

そんなリリーにメリルが笑いながら言うのだ。

「それはね、絶望する事なんだよ☆」

だから絶望して欲しいな☆とにこやかにリリーに笑いかける。

「いや、それ笑って言うことじゃないだろ」

思わずいつもの口調が零れる。

「えー☆酷いな、でも本当のことなんだもん」

ぷんすか、とメリルが頬を膨らませた。

「えっと……絶望するって、具体的にはどんな感じなの?」

こほん、と一咳ついて口調を戻して問いかける。

工具箱からトンカチを取り出せば、トントン、と釘を温室の壁へと打ち付ける。

「具体的にかー☆」

うーん、と悩みながらメリルは言葉を探す。

思いついたのか、ぽん、と手を鳴らした。

「絶望は魔法少女にとってのエネルギーなの!感じる幸せが倍に感じる為の第一歩なんだよ☆」

メリルが腕を広げれば得意げに空を仰いだ。

その言葉にふーんと聞き流すようにリリーな次々にトンカチで釘を壁へと打ちこんでいく。

「あーっ!リリーちゃん聞き流してるぅ!」

ひどーい!とメリルが叫びつつ、再びチクチクとカーテンを縫っていった。

温室が完成するのが楽しみだなぁ。

そう考えながらぼんやりとリリーは空を見つめた。

青い空が二人を見下ろしている。

白い雲がぷかぷかと浮かんでいた。


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