白い兎の行く先は2

あれは二年前。

要舞が学園に入学する時だった。

その日は入学式。

珍しく寝坊をした。

もしかしたら入学式が楽しみで緊張して眠れなかったかもしれない。

そういう時に限って在舞は起こしてくれず、入学式に先に行ってしまっていた。

そもそも、四人一部屋の寮で、部屋が違うのだから起こしに来れる筈がない。

要舞は項垂れた。

流石に高校生一日目。

入学式に遅れるのはやばいと思い全速力で走った。

学園は商店街を抜けた先にある。

徒歩圏内ではあるが寮からはそれなりに離れていた。

間に合うかな。

心配になりつつ、商店街を抜ければ、学園に通じる桜並木を全速力で走る。

「お、そんなに急いで走ってどうしたん?」

背後から声を掛けられた。

要舞はなんだよと思って後ろを振り向けばクリっとした黒い瞳と目が合った。

「だれ?」

思わず顔を顰めて問いかける。

そんな要舞に気にもとめず、同じ制服を着た富士額の少年は、要舞と並行して走りながら話しかけ続けた。

「よう、お兄さん一人?どーしたのよ、そんなに慌てて」

アリスの白い兎みたいだなと一緒に走りながらくつくつと笑う。

そんな呑気な彼の姿に思わず顔を顰める。

「いや、君こそ。今日は入学式でしょ、なんでここに居るんだよ」

その言葉に先程まで呑気だった顔が、大きく瞳を開かせて驚いた顔をする。

「えっ、まじ!?今日だった?やっばいじゃん!」

どうしよう、と徐々に少年の顔が青くなっていく。

「いや、だから僕急いでいるんだけど」

呆れたのか溜息を吐いた。

「いやいや、いつ今日だって言ってた!?俺知らねぇんだけど!?」

まあ、とにかく急ごうぜと彼は要舞の手を握りしめる。

そのまま引っ張りつつ学園の校門目掛けて駆ける。

少年の富士額が、向かい風が吹いているせいか顕になる。

「俺、二宮御影!よろしくな!」

要舞の手を引きながら此方へと振り返り口角をあげて、めいいっぱい笑う御影。白い歯が太陽の光に反射してきらり、として見えた。

「僕は___」

強い風が吹く。

桜吹雪が二人を包み込んだ。

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