白い雪のティアドロップ2
時は戻る。
これは、とある雨の日のこと。
二宮と書かれた墓の前。
その場に崩れ落ちる葵。
しとしと、と降る雨は留まることを知らず葵のことを濡らし続けていた。
ふと、冷たい水が彼へと当たらなくなる。
葵が空を見上げれば傘が差し出されていた。
「大丈夫……?」
濃いブロンド色の髪。栗毛と言った方が正しいかもしれない。くるりとした大きな瞳は濁っていて光を感じなかった。
心配そうに見つめる彼の姿に葵はありがとう、と瞳を細めて小さく呟く。
「別に……君が濡れてたから」
風邪引いたら大変だと思って。
大丈夫なら、良かったと少年は傘を使ってよと葵に渡そうとする。
「え」
思わず驚いたのか素っ頓狂な声が葵の口から零れ落ちた。
「使って、風邪引いたら大変だから」
こくこく、と濁った瞳の少年は気にしないでと頷く。
「え……でも……」
葵がそんなの悪いよと小さく呟いた。
「その制服的に同じ学校かなって思うんだよね君。そんなに躊躇するなら一緒に寮まで行けばいいよ」
だからほら、入ってと手を差し伸べる。
「そんな、悪い……ですよ……」
思わず葵は首を横に振った。
「悪いなんてことは無いかな。泣いてる人を一人にしておけないからね…」
だから、手を取って欲しいなと少年は葵を見つめた。
「あ、ありがとう……ございます」
彼の手を葵は取った。思わず敬語になる。
これも己が人に関わるのが慣れてないせいだ。
少年は言う。
「別に、敬語にならなくて良いよ。普通に話して」
「えぁ、はい……じゃなかった……うん」
こくり、と葵は頷く。
「要舞、
少年、要舞が葵に自己紹介する。
「あ、葵です。嶋津葵……」
よろしくお願いします、と小さな声で呟いた。
「嶋津……葵……うーん、どこかで聞いたことがある気が…」
どこでだろうと要舞が首を傾げる。
「本当ですか……?」
葵が不思議そうに問いかけた。
己はそこまで目立つタイプじゃないはずだからどこで聞いたのだろうかと不思議になって首を傾げた。
「嗚呼、でも覚えていないんだ。ごめんね」
彼の言葉に首を横に振る。
「も、もしかしたらクラスが近いのかも……僕あんまり人と喋らないから……その、目立たないかもだけれど……」
思いついたように葵が呟いた。
「そうなの?背が高くてよく目立つと思うけど……」
背が低くて気にしている要舞が羨ましそうに葵を見つめた。
「背のことは言わないで!け、結構気にしてるんだ……」
皆と同じくらいだったら良かったのに……
小さく呟いた。
その言葉に要舞が首を傾げる。
「そうなの?僕は今の君が良いけどね」
それに背が高い方がかっこいいよと笑った。
その言葉に照れたのか思わず頬を掻く。
「凄いね、えっと、紡くんは……」
「要舞でいいよ」
「い、要舞くんは、凄いね。人にしっかりと想いを伝えられるなんて、かっこいいよ」
僕はすぐに恥ずかしくなっちゃうと苦笑いをした。
「ふぅん……そうかな……でも、伝えたくても伝えられない想いは沢山あるんだよね僕も」
葵の言葉にそうなんだと頷きつつも寂しそうに遠くを見つめる。
「そうなの?」
思わず問いかけた。
「まあ……」
要舞が下を向く。いけない事を聞いてしまっただろうかと葵も黙った。
雨がしとしと、と降り続けている。
傘の中で二人。
まるで二人だけの世界だ。
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