天使はいちごミルクに溺れる3

夜中に目が覚めた。

栄斗にとって夜中に目が覚めるのは珍しいことだ。

いつもはぐっすりと熟睡出来て朝まで起きないはずなのに。

どうしてだろう、と頭を搔きながらベッドから起き上がる。

ふと、考えると、一つ心当たりがあった。

エンジェフラワーについてだ。

今日の温室であった出来事を栄斗は思い返す。

温かで穏やかな、二人だけの空間。

そこで交わされた一つの言葉。

あの時のエンジェフラワーの言葉に思わず涙が溢れた。

そんな自分を思い出して、らしくないと恥ずかしくなる。

思わず、その場に崩れ落ちる。

手で熱くなった顔を抑えた。

でも、何故、泣いてしまったのだろう。

あの時の彼女の言葉が今でも、熱を持ったように栄斗の耳に残っていた。

表情の見えない彼女の姿。

そんな見えないからこそ感じた、彼女の憎しみや恨みが篭ったような冷酷な声。

そんな言葉が耳にまだこだまする。


『全部、ぜぇんぶを消し去りたいんですよ。何もかもぜぇんぶ嫌になっちゃったんです、私』


全てを消し去ってしまいたいくらい、嫌になるくらいに世界を恨んでいた彼女の冷たい声。

聞いたことも無いその冷たい声に思わずあの時はどうすれば良いのかわからなかった。

彼女はそんなにも大きなものを抱えていたのか。

そう思うと自然と涙がエイトの目から溢れたのだ。

『大切な人に嫌われたくない』

なんて独りよがりな事を願った自分とは大違いだった。

今頃彼女は何をしているのだろう。

ずっと苦しんでいるのだろうか。

ふと、心配になり傍にあった指揮杖を手にする。

それを胸に抱けば月に向かって頭を下げた。

「もっと、もっと、僕の君への想いが、声がエンジェに届けばいいのに……」

少しでも、君の心が休まりますように。

そんな拠り所に栄斗は……いや、エイトはなりたかった。

明かりのない暗い部屋の中、小さな声で呟く。

エンジェフラワーに己の、魔法少女エイトの想いが届きますように。

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