秘密のドーリーちゃん5

授業が終わり之彦はゆうきを引き連れて温室へと向かった。

理由は簡単。

標が温室に居ると思ったからだ。

どうか、どうか無事でありますように。

そう、願いながら之彦はゆうきと温室へと向かう。

「……標くん、大丈夫ですかね」

心配そうにゆうきが之彦へと問いかけた。

「大丈夫、だと思う……」

曖昧な返事を之彦がする。

ゆうきが思わずぽつり、と呟いた。

「子音くんみたいに居なくならないで欲しいですね」

その言葉に之彦が頷く。

温室へと辿り着けば扉を開く。

温室の湿度の高い潤った空気が二人を招き入れる。

そこには、メリルと標がいた。

二人は標の元へと駆け寄る。

その途端、標が白い光に包まれた。

そして、魔法少女シモンとなる。

それも、変身アイテムを一切出さずに。

「「!」」

思わず驚きの声が二人から零れ落ちた。

ゆうきがあんぐりと口を開けてシモンを見つめている。

「えっ、標く……じゃなかった、シモン!?どうしたの」

之彦がシモンの元へと駆け寄れば思わず指をさした。

戸惑いながらも、ゆうきも之彦について行く。

そんな二人の反応に思わずふふん、とシモンが腰に手を当て得意げに笑う。

「見てくれよ、二人とも。ボク、進化したんだよ!」

とても強くなったんだ!と嬉しそうに之彦とゆうきへと抱きついた。

わ、と二人から声が零れ落ちる。

「進化……?」

「?どいうことですか?」

その言葉にメリルが凄いでしょう!と得意げに胸を張る。

「魔法少女はね、夢を叶えると強くなるんだよ☆だからね、夢を叶えると魔法少女は変身アイテムなしに変身できるの!」

その言葉に目を開く二人。

「え、そうなんですか……」

「知らなかった……です」

驚く二人の肩をパンパンとシモンが叩けば嬉しそうに笑う。

「だろ!ボクもさ、びっくりしたんだ。てっきり変身アイテムが無くなった時は、魔法少女じゃなくなったかと思ったから怖かったんだよね!そしたらメリルさんがそういうの。そして変身してみたらこの通り!今めちゃくちゃ安心してんだ!」

魔法少女のままで居れて良かったとシモンがぎゅううと二人を力いっぱい抱き締めた。

シモンの力強さに痛かったのか顔を歪める。

でも、シモンの安心したというその言葉に之彦が安堵の息を着いた。

「そうなんだね、無事で良かった。後夜祭の時から様子がおかしかったから心配してたんだ」

てっきり標くんに大変なことが起きたと思っていたから安心しちゃったと、之彦はシモンを抱き締め返した。

「僕も安心しました。之彦くんからシモンくんの……標くんの様子がおかしいと聞いていましたから」

帰ってきてくれてありがとうございますと嬉しそうに抱き締める。

「心配してくれてたんだな。サンキュ、二人とも」

何事もなくて良かったと嬉しそうにその場で三人は固いハグを交わした。

嬉しそうににこにこ、とメリルが見ている。

先程まで雨が降っていた空は明るくなり、青空が広がりだした。

安堵のせいか、思わずシモンの頬から一筋の雫が零れる。

その雫はゆっくりと地面へと落ちてゆき、植えられた一輪の花へと降り注ぐ。



幸せになれたよ。ねえちゃん。

ねえちゃんのおかげで。ううん、みんなのおかげで。

ずっと、ずっと、ボクの……ううん、俺の心の中で見守っていてくれよな。



二人から離れればシモンは胸に手を当てる。

そして花が咲く様な満面の笑みを二人へと向けるのだ。


「ゆうき、之彦、ボクは……ううん、俺はお前たちのことずっとずっと、大好きだぜ!」



三人の様子を眺めながらメリルが机の上で、青い宝石を指先でころころと転がしている。


「これから一年生達は、もっともっと、強くなれちゃうね☆」

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