トワイライトテンペスト5

体力はある方だと思っていた。

でも、はあ、はあ、と息が荒くなる。

少し息苦しくなってきた。

標はとある人物を追いかけている。まるで、白い兎を追いかける少女のように。

どこまでも

どこまでも

追い掛ける。

でも、決して白い兎に追いつくことはなく、どこまでも走り続けるのだ。

そんなこと思い出しつつ標は黒いTシャツを握りしめて走り続ける。

ぴた、

急に走っていた人物が止まる。

標もそれに合わせて足を止めた。

思わず前屈みになってその場へと蹲る。

「はぁ、は、……ったく、魔法少女ってのはどんだけ体力あるんだよ……なぁ、




リメ?」


標が追いかけていた声の主の方へと視線を向ける。

そこには御伽噺の少女のように頭巾を被った可愛い女の子。眉を下げ、今にもごめんね、と言う言葉が口から飛び出しそうな少女の姿、魔法少女の姿がそこにはあった。

「久しぶり、だね、標お兄ちゃん」

みんな元気にしてたかな……と問掛ける。

「嗚呼、そうだな。元気にしてたよ。でも、お前が居ねぇとやっぱり寂しいな。みんな寂しんでたぜ?」

その言葉にリメは申し訳なさそうに俯く。

「そっか……みんなに心配かけちゃってるんだね……」

申し訳ないなぁと胸元のリボンを握りしめる。

「なあ、早く帰ってきてくれねぇか。俺が、俺たちがリメの願いを叶えるのを手伝うからさ」

だから、と標はリメへと手を伸ばす。

しかし、その手がリメへと届くことは無かった。

カシャ、

マッチの入った箱が鳴る音がする。

リメが眉を下げてにこり、と笑った。

「リメね、今からシモンお姉ちゃんの、ううん、標お兄ちゃんの願いを叶えてあげるの」

だから、目を離さないでみててね


そう、リメが言うとマッチの入った箱から一本マッチを取り出した。

そして、そのマッチをスっとすれば炎が灯る。

標は何が起きているのか分からずリメを見つめた。

ゆらゆらと炎が揺れ始める。

「標お兄ちゃん、見つめて。そう、じっと、炎を見て」

その言葉に従うように標は炎を見つめる。

ゆら、と炎の中に人影が揺れた。

標は思わず少し後ずさる。

でも、目を離すことは出来なかった。

そして、人影が一人の少女へと姿を変える。

標は思わずその場に立ち上がり、ふらふら、と炎の元へと歩み寄った。

「ねぇ、ちゃん……」

標が思わず声を零す。

栗色の瞳、瞳と同じ色の長い髪。炎の中の少女はそっと、優しく標を見つめている。

そう、その少女は標に瓜二つの女の子。

標の会いたかった双子の姉の幻影だった。

「あ、会いたかった……そうか、これが、ねえちゃんの姿、なんだな」

思わず涙が標の頬から流れ落ちる。

標はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

その拍子か、

ぽろ、とポケットから標の変身道具であるコインが落ちる。

チリン、という音がした。

標がすぐさま手を伸ばしコインを拾おうとする。

でも、それは叶わなかった。

サラサラと変身アイテムであるコインが砂のように消えていく。

標はその場に固まった。

眉を下げつつリメが瞳を細めて笑う。

「良かったね、標お兄ちゃん。

標お兄ちゃんは願いが叶ったんだよ」


幸せになったね、おめでとう。


さあ、と風が吹き抜ける音がした。

吹いた風のせいかマッチの炎が消える。

当たりは薄暗く、月の光だけが二人を照らしていた。

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