ラブリーヘブンリー3

日が落ちるのも早くなり、辺りが薄暗くなってくる。

そんな、ある日の放課後。標は駆け足であずきに頼んでいたものを受け取るために、ケーキ屋

『フランボワーズ・トルテ』へと向かう。

カラン、と勢いよく扉を開けた。

「こんにちはっす……あれ?水篠先生?」

標が思わず声を上げる。

ケーキ屋のショーケースの前、そこに立つ男性に思わず標は首を傾げた。

ミルクティ色の髪に黒縁の眼鏡をかけた男性。その男性は標もよく知る己の学校の教師の一人だった。

何故こんな所に居るのだろう。

思わず首を傾げる。

標を見て、ふぅ、と一息吐けば指の腹で縁を押して、眼鏡の角度を直す。

そして、ショーケースの上へと置いてあった白い箱を手に取れば標へと渡した。

まだ状況の理解を理解出来てない標に溜息ひとつ吐けば淡々と喋る。

「あづきさんは今日は用事があるのでここには居ませんよ。代わりにこれを双葉君に渡してくれ、と頼まれたんで、僕がここにいるんです」

これで合ってますか?と首を傾げて標へと問いかけた。

何の変哲もない白い箱。そのケースの上の部分。そこから僅かに見えるソレを確認すれば、そこからでも分かる予想以上のクオリティに標は満足そうに頷いた。

「問題ありませんでしたっ!ありがとうございますって伝えてください!」

嬉しそうに頭を下げれば片手に袋を持ち、大きく手を振り、店から出て行く。

「先生!また学校で!」

「ええ、お気をつけて」

標を見送れば、再びくい、と眼鏡を指の腹で上げる。

そして、標がいなくなった事を確認すれば、一息付いた。

「行きましたよ、さん?」

その言葉に反応したのか、ぐにゃり、とショーケースが柔らかく歪む。

「あーあ、また、そんな事をして……久しぶりで能力の使い方慣れてないんですか?」

「……うるさい」

呆れたように為息を吐きつつ、店の奥へと視線をおくれば一人の少女が顔を出した。

紫色の瞳。髪は金髪にラズベリーのような紅いメッシュやインナーカラー入っていて、ショートケーキのような可愛らしさを演出させている。一部だけ長い毛先を指先でクルクルとさせつつもモジモジと恥ずかしそうに幸の前へと姿を現した。

「あれ、行った?」

やっぱり恥ずかしかったのか、カーテンに掴まり服装を隠しつつも幸へと問いかける。

その姿に面白いなぁと思いつつもこくり、と頷いた。

「ええ、行きましたよ。君がエミリアと話してる間にね」

全く、恥ずかしいなら変身しなければ良かったじゃないですか、と呆れた声を上げつつも着ていた白衣を脱げば、少女の頭へと被せる。

わ、と思わず少女が声を上げた。

「嫉妬、した?」

おずおずと遠慮がちに幸を見上げれば、ぽんぽんと優しく少女の頭を撫でる。

「そりゃあ、僕に内緒でこんなことしてるんですから、それくらいはね……まあ、いいですけど」

ほら、ひとまず元に戻ってくださいと少女の額を指先で突っついた。

「痛っ……ごめん……でも、有益な情報はゲット出来たから許して」

しょんぼり、と少女は幸へと寄りかかる。

思わず溜息を吐きつつも少女の肩を抱き締めてこちらへと引き寄せれば優しく頭を撫でた。

「それで、トルテさん、有益な情報って?」

その言葉にフランボワーズ・トルテは嬉しそうに瞳を細めて嬉しそうに笑った。

そして、ゆっくりと口を開いてにこり、と笑う。

「だいちの居場所、分かった」


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