とある羊は幸せな夢をみる2
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
何故、自分はこんなにも弱いのだろう。
ユキが周りに倒れている仲間を見渡す。
前には触手を畝らせてこちらへと攻撃準備を進めるドリームイーター。
足を挫いてしまったせいかユキも動くことは出来なかった。
嗚呼、ここでおしまいか。
触手がユキへと振り落とされる。
ユキはそっと目を閉じた。
皆さん、守れなくてごめんなさい。弱くてごめんなさい。
一筋の涙が床へと零れ落ちた。
「諦めないで」
どこからとも無く声が聞こえる。
うっすらと目を開ければ見たことの無い白い、ウェディングドレスを身にまとった様な魔法少女が目の前に立っていた。
「大丈夫……?」
黄緑色の髪をした魔法少女はこてん、と首を傾げる。
背後からドリームイーターが襲ってきた。
「危ない!」
ユキが叫ぶ。
次の瞬間、ドリームイーターが真っ白な光に包まれて跡形もなく消えた。
「え……」
ユキは思わず目を開いた。こんなにも一瞬でドリームイーターが消えるものなのだろうか。
開いた口が塞がらない。
魔法少女がしゃがみこむ。そしてそっとユキの足を撫でた。
「可哀想……怪我、してるのね」
魔法少女が眉を下げる。
「あの……」
ユキが思わず声を零した。
「なに?」
こてん、と首を傾げる黄緑色の髪の魔法少女。
「あなたは……」
魔法少女がクスリと笑った。そして、ユキの足をひと撫ですれば足が白い光に包まれる。
「治ってる……!」
思わず驚いた声を上げた。回復タイプの魔法少女なのだろうか。
魔法少女はふふ、と笑ってユキの頭を撫でる。
「ドレッシング。ボクはクリア・ドレッシング」
覚えていて頂戴ね。
そう言うとドレッシングが白い光に包まれる。
「まって、」
ユキが手を伸ばしたが消してドレッシングに届くことはなかった。
しぃん、と世界が静まり返る。
「ん……ここは……?」
シモンが起き上がった。
「シモンくんっ」
大丈夫ですか!と思わず起き上がる彼女へと抱きついた。
「嗚呼、ユキか……悪いな。助けることが出来なくて」
申し訳なさそうに眉を下げつつユキの頭を優しく撫でる。
ふるふる、と首を横に振った。思わず涙が零れ落ちる。
「安心して欲しい、僕なら大丈夫だよ。怪我も何も無かったみたい」
そう言いながら腕をぐるぐると回す。
良かった……と肩へと顔を押し付けた。
「ン……ユアモブジ……リメハ……?」
ユアが起き上がればリメの方を向く。
「リメも大丈夫!びっくりしたぁ~」
起き上がれば、怖かったよォとシモンとユキに抱きついた。ユアも、と三人をぎゅう、と抱き締める。
「皆、生きてて良かったです。もう、ダメかと思いました……」
脱力したのかユキが三人に寄りかかり声を零す。
「だよな、びっくりしたぜ……」
うんうん、とシモンが頷いた。
「ユア、シンダカトオモッタ、デモ、ケガヒトツモナイ」
フシギ……と己の身体を見回す。
「助けて貰ったんです」
ユキが呟く。瞳を細めて笑った。
「そうなのか?メルルさん達か?」
ユキが首を横に振る。
「いえ、クリア・ドレッシングさんという方に……」
確かそんな名前だった気がしますと首を傾げた。
「それ、本当!?」
リメが思わずユキの肩を掴む。
リメの行動に驚いたのか思わずユキが目を開いた。
「は、はい……」
ユキが頷いた。
「その人は今どこに……?」
リメがくりくりとした瞳を開きながらユキを見つめる。
「えっと、白い光に包まれて消えてしまいましたから分かりません……」
すみません、とユキが俯いた。
そんなユキにごめんごめんと手を肩から離せばひらひらと振る。
「や、大丈夫、大丈夫だよ!リメもお礼を言いたいと思って!」
だから気にしないで?とリメが笑う。
そうなんですかと首を傾げた。
「えっと、ひとまずこの本は大丈夫ってことでいいんですかね……?」
ユキが首を傾げる。
「嗚呼、大丈夫だと思う。帰ろうか」
シモンが立ち上がる。
「ア、マッテ!」
ユアがシモンを引き止めるように大声で彼女立ちを引き止める。
「どうしたんだ、ユア」
ユアが先程ドリームイーターがいた場所へとしゃがみこんでいた。
「コレ!ワタシハジメテミタ!コオリミタイナホウセキ!」
キラキラと手の中で光る透明なそれは、まるで冷たい氷のようで、ユアの手の中でキラキラと光っている。
「なんだろうこれ……初めて見たな」
シモンが首を傾げた。
「ドリームイーターから出てきたものみたいですね……」
何か食べたんでしょうかとユキも首を捻る。
「でも、食べてんなら他にも出てくるだろ……これだけってなんかおかしくないか?」
うーんとシモンが眉をひそめた。
「タシカニ……」
ユアが呟く。
「ひとまず帰ってメリルさんに見せてみるか……」
シモンが顎に手を当てつつも宝石のような石をじ、と見つめる。
「そうですね、そうしましょう」
こくこくと頷く一同。
「じゃあ、帰るか」
そう、シモンが宣言すれば身体が光だす。
さあ、帰ろう。
皆で帰るんだ。
ユキはそっと目を閉じた。
「ごめんね、皆」
小さな声が聞こえた。
ユキは聞こえた声の主の方をむく。
「えっ、」
リメが皆の身体を外の世界へと押し出すように突き放す。
「リメ、もうみんなと___」
リメは今にも泣きそうな顔で三人を見つめた。
その顔はとても、
とても、
なにかに囚われているような顔だった。
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