その花は枯れを知らず2

何か忘れている気がする。

ゆうきは校舎内の中庭にある長ベンチで空を仰いだ。

視界には一面の青空と、そびえ立つ大きな木。

天気が良いなぁと思わず心の中でつぶやく。

己のモヤモヤとする霧がかった脳裏もこの空のように晴れないだろうか。

そう、考える。

「ゆうき、何してんだ」

後ろから声をかけられる。

前を向けば三人の生徒がゆうきへと歩み寄る。

一人は昨日己を迎え入れてくれた少年。茶髪の髪を真ん中に分けて、緑色のピンで止めている。シャツは来ておらず、パーカーに学ランを羽織っていた。

「昼ごはん、買ってきたよ。場所取りありがとう」

茶髪の髪を一つに束ねた少年がゆうきに大きな袋を見せた。深い緑色の瞳がゆうきを見つめている。大きな袋に沢山買ってきたんだとゆうきはありがとうございますと笑う。

「大丈夫なのです~?」

可愛らしい少女と錯覚するかのような高い声。くるくるの栗毛をハーフアップにしている少年が袋を抱えて二人の間からひょこり、と顔を出す。

「標くん、之彦ゆきひこくん、子音しおんくん。お疲れ様です、ありがとうございます。大したことはないのですが、ちょっと考え事をしていました」

苦笑いしながら三人を見つめる。

双葉標ふたばひょう月見之彦つきみゆきひこ海彩子音ういしおん。三人ともゆうきの同級生であり、寮のルームメイトだ。ルームメイトだから、一緒に居る。と言うよりも、いつも同じ空間で過ごして仲良くなり、段々とつるむ様になったと言った方が正しいかもしれない。

ゆうきは彼らと仲がいいと思っている。

長ベンチに横並びに座れば之彦からあんぱんの入った袋を受け取る。

受け取った袋を破きながら他愛もない話をした。

「そういえば」

標が何かを思い出したのかゆうきに問いかける。

ゆうきは首を傾げつつどうしたんですかと聞き返した。

「昨日遅かったけど大丈夫だったか?」

メロンパンの袋を開けつつも標は首傾げた。

はい、とゆうきが返事をする。

「大丈夫でした。帰る途中に眠くなってしまって…気づいたらベンチで眠りこけていたみたいです」

その言葉に標がなぜだか分からないけれど眉を下げる。ゆうきへと手を伸ばせばわしゃわしゃと頭を撫で回した。

「そうなんだな。無理すんなよ。最近暑かったり寒かったりで疲れやすいからな」

優しい彼の姿に良い友人だなぁと嬉しくなった。思わずありがとうございますとはにかむ。

「でも…」

思わずゆうきは小さな声で呟く。

「ん?」

標がメロンパンを口に咥えつつ首傾げる。

ゆうきがあんぱんをちぎりながら眉を下げて標を見つめた。

「何かは思い出せないんですが、大切なことを忘れている気がするんですよね……」

苦笑いするゆうきの姿。その姿を見詰めればゆうきの肩を抱え込むように抱き締める。わ、と思わずゆうきは声を上げた。

「いいんじゃないか、思い出せないことは思い出さなくてさ。それが嫌な思い出だったら嫌だろう?だから気にすんなって」

無理するなとゆうきへと微笑みかけた。

それもそうだ。思い出せないのなら仕方がない。

そう思いつつ小さく頷く。

くい、と標の隣へと座っていた之彦が彼の服の裾を引っ張った。

「標くん、そろそろ」

之彦が標に声をかける。

標が之彦の方を振り向く。之彦が時計を指で指さした。

「お、もうそんな時間か。悪い、ちょっと俺ら先生に用があるから行ってくるわ」

また寮で、と標はメロンパンを口に突っ込んで口をもごもごとさせながら立つ。

また後で、と去っていく二人。

コトン、という音がして去っていく標のポケットから小銭が一枚落ちた。

「あ…標くん………コイン………?」

小銭を拾おうとベンチから立てばその場に膝を着く。

ふと、脳裏に何かが過ぎる。

それは、昨日であった魔法少女の記憶だった。

吊り上がった目尻。琥珀色のくりくりとした瞳。黄色の髪は毛先に行くに連れて黄緑色になっていて、アニメの世界の人物かと錯覚させられる少女。彼女と共闘してドリームイーターという化け物を倒した記憶。

ゆうきは思わずその場へと崩れ落ちた。

そんなゆうきに子音が思わず駆け寄った。

ゆうきが頭に手を当てて瞳を大きく開く。

「全部…全部思い出しました」

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