第七章第11話 会談(後編)

「サラ? もしやそちらの女性はブラックレインボー帝国の第一皇女サラ・ブラックレインボー殿下ではありませんか?」


大統領がそう尋ねる。サラさんはしばらく無言で押し黙っていたが、やがて観念したかのように顔を覆っていたヴェールと外すとその素顔を晒した。


「仰る通りです。わたしはサラ・ブラックレインボー。ブラックレインボー帝国の第一皇女です。とはいえ、今のわたしは追われる身で、聖女フィーネ・アルジェンタータ様に庇護いただいております」


サラさんがそう伝えると、大統領は安心させるかのようにニコニコと笑顔を浮かべる。


「皇女殿下、それはお辛い体験をなさいましたね。よろしければ何があったのか詳しく教えて頂けませんか?」

「……はい」


そうしてサラさんは船上で私たちに語ったのと同じ内容を説明した。


「そうでしたか。皇女殿下、よろしければ我が国で貴女を保護いたしましょう。そして国を取り戻すため兵もお貸しいたしますよ?」

「それは……」


大統領がそう優しい口調で提案するが、サラさんの表情は優れない。


あれ? いい話のような気がするけどサラさんとしてははあまり気乗りしないのかな?


「そうですな。こちらにおりますマタルの次男などは武勇に優れ、特に剣を扱えば右に出る者はいないと評判でございます。きっと、皇女殿下を公私ともに支えてくれることでしょう」

「う……ですが……」


首長さんの息子ってことは王子様ってことなのかな?


それで凄腕の剣士ならいい話なような気もするなと思うがサラさんはやはり乗り気ではない様子だ。


困っている私にクリスさんが小声で助け船を出してくれた。


「フィーネ様。おそらくですが、サラ様はイエロープラネット首長国連邦には借りを作りたくないのではないでしょうか? 他国に庇護されるのと聖女であるフィーネ様に庇護される

のでは事情が大きく異なります。他国に庇護されて帝位を奪還した場合、その国に頭が上がらなくなってしまいます」


ああ、なるほど。そういう事なのか。


「ええと、大統領。サラさんは現在私が保護しておりますのでしばらくはこのまま旅を続けたいと思っています。それに魔の者と手を組んだとなれば私も戦うことになるかもしれません。その時には是非、お力をお貸し頂けませんか?」

「……左様ですか。聖女様と共に旅をされるという経験も得難いものでしょうからな。ええ。その時は是非、我々をお頼り下さい。万難を排し、我が国の強さを見せつけましょう」

「はい、よろしくお願いいたします」


大統領はニコニコとした表情のままあっさりと引き下がってくれた。


「それに、魔の者と手を組み人を死なない兵に変えるなど言語道断でございますからな。それとその死なない兵を退ける方法とのことございますが」

「はい。それはですね」


私はブラックレインボー帝国兵の死なない兵の倒し方を余すことなく伝えた。


「なるほど。浄化魔法を付与した武器でございますか。どのレベルの浄化魔法が必要になるのでしょうか?」

「レベル 3 であれば一撃でしたよ」

「レベル 3 ですか……」


大統領はそう言うと少し意気消沈したように見える。


「あ、でもレベル 2 でも効果はあると思いますよ? クリスさんの【魔法剣】もレベル 1 でしたが何回か攻撃すれば倒せてましたし」

「なるほど……。【聖属性魔法】に【魔法剣】まで習得なさっておられるとは、さすがは聖騎士様ですな。ですが、レベル 2 でしたら神官どもの副職業を付与師にさせれば我々だけでもそのうちどうにかなるでしょうな。有益な情報をありがとうございます」

「いえ」


大統領はそう言うと明るくニコニコした表情に戻った。


「ところで、私たちは今こちらにいるルミアの妹のレイアというエルフを探しているのです。レイアも無理矢理奴隷にされたそうで、恐らく隷属の呪印が施されています。心当たりはございませんか?」


私がそう切り出すと、大統領は真剣な表情で何かを考えるような素振りを見せる。


「……聖女様。聖女様が奴隷に対して良く思われていないことは存じております。もちろん、隷属の呪印は禁じられておりますが、それ以外の者につきましては我が国では奴隷の存在を認めておるのです。どうぞ、その点はご配慮いただけますようよろしくお願いします」

「え?」


奴隷を認める? そんなこと!


「フィーネ様。イエロープラネット首長国連邦にはイエロープラネット首長国連邦の法がございます。そしてその価値観はフィーネ様と相容れないものかもしれませんが、かといって他国の法を無理矢理捻じ曲げるわけにはいきません」


クリスさんが小声でそう教えてくれる。


「……そうですか」


釈然としないが、それはそうなのかもしれない。私は抗議の言葉を無理矢理飲み込んだ。


「ですが聖女様。隷属の呪印の施された奴隷を扱っているのであれば売った者も買った者も死刑と決まっております。ルミア殿の妹君がもし国内にいるのであればすぐに取り返すことができるでしょう。各首長にも連絡しお調べいたしますのでしばしお時間を頂けませんか?」

「……わかりました。ご協力いただきありがとうございます」


こうして私たちと大統領との会談は終わったのだった。

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