第116話心春の母涼子と別れ、ソニーショップに

トルコ料理をたっぷり楽しんだ後、翼は心春の母涼子に微笑みかける。

「大人の銀座歩きもしたいでしょうし、次の予定もあるでしょうから」


涼子は、満面の笑み。

「翼君にも逢えて、美味しいトルコ料理と銀座一人歩きも楽しめるとは」

「ストレス解消になります」

そして翼に頭を下げる。

「まだまだ未熟な心春ですが、よろしくお願いいたします」


翼は微笑。

「わかりました、道案内程度ですが」


そのやり取りに、心春はようやく口を挟む。

「道案内とは?意味わからん」


涼子が、プッと吹いた。

「心春?ここから高井戸に帰るにどうする?」

「乗り換えわかる?」


心春は、途端に焦り顔。

「さっぱりわからん・・・」

「東京駅に行って、中央線に乗って?」

「吉祥寺から井の頭線?」


翼は、微笑のまま。

「いろいろあるけれど、銀座線で渋谷まで出て、そこから井の頭線に」


翼と心春、涼子は銀座四丁目の交差点で別れた。

地下街を歩きながら、心春は複雑な顔。

翼が、自分より、母涼子を話が合ったことが、まず気に入らない。

「うちは、マジ、子供扱いや」

「何も知らん、お子ちゃま?」

「・・・しかし、ついて行けんかったしなあ」


翼の視線は、心春にではない。

ソニーショップに向いている。

「チョコレート買おうかな」

そんな、のん気なことも言い出している。


心春も、ソニーのショップを見た。

「ここにチョコレート?」

少し訝しがるけれど、翼はそのまま、ソニーショップに入ってしまう。


訝しがっていた心春の顔が、ソニーショップに入るなり、一変した。

「え?マジですの?」

「えらいお洒落やないですか!」

「あーーー・・・お化粧品も!」

「面白い雑貨も、はぁ・・・見飽きん」

「さすが銀座やなあ・・・ひょいとこんな店が」


店内をはしゃぎまわる心春を見ることもなく、翼はチョコレートを物色。

ベルギーものなど、数点買っている。


心春は結局、翼のところに戻って来た。

「翼君、チョコレート好きなの?」


翼は恥ずかしそうな顔。

「モカジャバでも作ろうかなと」

「忙しい時に朝ごはんとか、お昼でも食事の代わりに」


心春は、首を横に振る。

「いけませんねえ、そんな時は、私と一緒に」


翼は話題を変えた。

「産業革命の時代、イギリス労働者の朝ごはんは、最初はビールだったとか」

「それでは、酔っぱらう人も出て、困っていた時に、チョコレートの大量生産が始まって」

「キットカットが、ビールの代わりに、労働者の朝ごはんになったとか」

「日本の宮中でも、朝に、おめざ、と言って甘い物を食べる習わしが」

「イタリアでも、朝食は、エスプレッソと甘いパン」


心春は、途中から聞いていない。

「あきまへん、そういう時は、うちが作ります」と、胸を押し当て気味に、腕を組んでいる。

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